こんにちは。
トレイルランナーズ大阪の安藤大です。


2023年5月20日(土)から21日(日)にかけて開催された『kobo trail 2023 DtoK〜弘法大師の道〜』に初挑戦をされた女性ランナーNさんから、レースの感想を“最後尾ランナーの視点”で寄稿していただきました。(名前はご本人の意向により匿名にてご紹介)

Nさんは昨年も“最後尾ランナーの視点”として、滋賀県の十二坊トレイルのレポートを寄稿くださいました。

 

Nさんは2019年7月にはまだ最長で5㎞しか走ったことがなく、マラソンの完走経験はゼロ。ジョグは1km8分のペースで、当初は「本当に大丈夫ですか?」名古屋の東山公園の入門ツアーへの参加受付も僕がためらうほどの体力レベルでした。

そのNさんが4年のトレーニング期間を経て今年、「私にとって最も距離が長く、過酷なトレイルの大会にチャレンジをします!」とKoboTrailへの挑戦を僕に話したときには、「ええ?ほかにもロングのレースは沢山あるのに、中でも過酷なKoboTrailをどうして選んだの?大丈夫!?」と思いました。


ここからはNさんのエピソードトークです。

 

2023年の正月。今年の『Kobo trail』大会が弘法大師生誕1250周年記念大会と知り、胸が騒ぎました。この大会は1200年以上前に弘法大師が3日間かけて歩いたとされる修験の道を走るもので、吉野からの55km(KtoK:累積標高3,770m)と洞川温泉からの43km(DtoK:累積標高2,263m)の2つがあります。

私が2019年にトレイルランを始めて間もないころに大会のことを知り、「5年後には出たい」と目標にしてきた大会です。


何かと「記念日」に弱い私。


11月の忍者トレイル22km、12月の熊野古道30kmの記録から完走できるか計算すると、「(ひょっとしたら不可能ではないかもしれない」と思い、新年の勢いで予定より一年前倒しで43km(DtoK)に申し込んでしまいました。


申し込んでから数日は、「やっぱり無理かもしれない…」と悪夢にうなされましたが、挑戦にむけて少しずつ準備をしました。


【5/20(大会前日)】

DtoKコースの参加者を乗せたバスは、奈良県天川村の洞川温泉へ。事前説明を聞いたあとは参加者で龍泉寺で明日の安全、完走を祈願する護摩行に参加しました。目の前で燃える火と上がっていく煙、火の粉を見つめながら、安全に楽しく完走できることを祈りました。ほらがいの音色、けむりの匂い、凛とした空気…すべてが心をしずめてくれるようでした。

その後は希望者のみで水行。ほかのトレイルラン大会ではできない貴重な体験でした。池に胸まで浸かり、お経を読んでもらっている間、静かに手を合わせ、祈りました。水から出たあとは驚くほど身体や気持ちが軽くなっていることに気がつき、「明日は完走できるかもしれない」と思うことができした。

スタート会場でトレイルランナーの鏑木さんから「え…来ちゃったんですか?走るの??きついコースですよ~」と私の参加に驚きを隠せない様子でした(笑)鏑木さんとは、昨年9月の合宿セミナーで一度お会いして顔を覚えてもらっていました。

「もし完走することができたら、これからのあなたにとって大きな自信になることは間違いないので最後まであきらめずに頑張ってください。」と言っていただき、「遅い時間帯になりますが、ゴールで待っていてください!」と言ってしまい、これで完走しないわけにはいかなくなりました(笑)

 

【5/21(大会当日)】
最初から最後尾スイーパーと一緒に行動するのではなく、「行けるところまでは自分のペースで行ってみたい。そのうち回収されるかもしれないけれどそのときは力を貸してもらってゴールしたい。」と思いました。

はじめの4kmは舗装道。洞川温泉街を走り、前日にお世話になった宿や龍泉寺の前を通ります。宿や地元の方、観光客が沿道で見送ってくださり、とても嬉しかったです。


温泉街を抜けるとだんだんと登り坂になり、走りと早歩きを混ぜながら登っていきました。

 

トンネルが現れたら小南峠で、そのトンネルの右側から、いよいよトレイルに入っていきます。ポールを取り出し、準備完了。


いきなり、「ここを登るの?」という急さでしたが、事前説明で写真を見ていたこともあって動じずに登っていくことができました。

登り切ったと思ったらまた登りが続き、ずっと登っていた印象です。以前はキツい登りだとしょっちゅう立ち止まって休憩していましたが、ゆっくりでも登り続けた方がリズムが崩れずにいいと経験から学び、後ろの人のペースが速いときには道を譲りながら、それでも歩き続けるようにしました。登りも下りもリズムが大切ですね。

道なき道を進み、壁のような登りをいくつも登り、倒木をまたぎ、まさにアドベンチャーでした。


走れそうな下りでは、安藤さんのツアーで教えていただいたポニーやカリオカ、「足下ばかりを見ないで先のラインを見る」を実践でき、上手く下れたところもありました。

 

はじめの武士ヶ峯エイドまではスタートから16.5kmとかなりの距離がありました。「この坂を登り切ったらあとは下ればエイドですよ!」と声をかけてくださる方がいましたが、トレランあるあるで、下ってもエイドは現れずにまた登り。


そんなことが多々ありました。

手元の時計では18kmを超え、「(ひょっとすると道を間違えてエイドを通りすぎてしまったのでは…)」と不安になり、後ろにいたランナーに「エイドはもうすぐですか?」と尋ねたら「いやぁ~、なんとも言えません。」と言われ、不安いっぱいで進みました。

その後はようやく武士ヶ峯エイドに到着。先ほどエイドまでの距離を尋ねた方から、「さっきはすみません。「もうすぐ」って人によって感覚が違うので、変に期待させてはいけないと思い…」と弁明いただきました。


私もこれからは「もう少しですよ!」なんて言って期待させないようにしようと思いました。

事前説明で武士ヶ峯のエイドにプリンがあると聞いていたので、「(とにかくプリンを食べるまでは終われない!)」と思い、ここまで頑張れました。「たっぷり準備していますので、何個でもどうぞ!」とありがたいお言葉をいただきました。

2つ目の天辻峠エイドでは柿の葉寿司があって酢飯が疲れた身体に効き、元気が出ました。ここでも「たっぷり準備していますので、何個でもどうぞ!」とありがたいお言葉をいただきました。


トレイルのレースは熊野古道の30kmが最長で、43kmは未知の距離でした。天辻峠までの23kmを一区切りとして考えました。ごほうびの柿の葉寿司で気分をリセットして、これから20kmを走れるか考えたら、「うん、行ける!」と思えて気分が楽になりました。


自分が走ったことのない未知の距離も、細かく分けて考えると不思議と頑張れました。

その後もマイペースで、無理なく楽しみながら進め、次の関門2ヶ所もそれぞれだいたい制限時間1時間くらい前に到着できました。


まだまだキツい斜度の登りが残っていましたが、もう何回も登ってきているので免疫ができ、「もう、このくらいの登りは大丈夫!これまでにどれだけすごい登りを登ってきたと思ってんのよ!」とぼやきながら登り切ることができました。


1日で登りが強くなったようです。もう、そんじょそこらの登りは怖くありません。

3つめの最終エイドへと向かう山道はそれまでの登りと比べてなだらかで、普段練習している里山ハイキングコースのようでした。


西日が差す中、朝から夕方まで「(一日中山にいさせてもらって楽しかったな~)」としみじみ感じ、1200年前にこの道を歩いたという弘法大師に思いを馳せ、長い歴史を感じながら進みました。

ほかのランナーとおしゃべりしながら進む余裕もありました。2年前まではまだ何の大会完走経験もなく、ツアーでトレイルランを楽しむ程度でそれ以外の練習は0。


マラソン大会にはじめて出てみようかなと思っていたころで、「とりあえず1日1km、月間走行距離30kmを目指します」と言っていた私が、いまでは36kmの山道を走ったあと、「あと7kmか。大丈夫!」なんて思っている。自分自身の成長に驚いていました。

ぎりぎりヘッドライトがいらない時間に戻ってこれました。金剛峯寺の境内前の広場にゴールテープがあって、コースディレクターの横山峰弘さんと鏑木毅さん、そしてほかのランナーやスタッフ、観光客の人々が拍手で出迎えてくれました。こんなに幸せなことがあるでしょうか。

ゴールテープの右側が境内で、ゴール後はすぐにお参りをし、普段は秘仏になっている弘法大師像がご開帳されていました。


1200年以上前に弘法大師が歩いた道を無事に走り切ることができました。挑戦を支えてくれたこれまでのすべての経験、ここまで私を連れてきてくれたすべての出会い、言葉がけに感謝をし、この挑戦を決めてやりきった自分を褒め、私の大挑戦が終わりました。挑戦して本当によかったです。

ゴールしたときには鏑木さんが本当に驚いているのがわかりました(笑)「女子8位ですよ!」と記録賞と賞品をいただき、2部門それぞれで一人選出される「鏑木賞」に選んでいただきました。

鏑木さんから、「この女性の方は、昨年の9月に僕の初心者向けツアーに参加して、ぶっちぎりの最後尾でとても心配していた方です。途中道迷いもされて、正直めちゃめちゃ引率が大変でした。今日のコースを完走されて本当に驚きました。あれから一年も経っていないのにまるで別人になられ、素晴らしい努力をされたと思います。」とみんなの前で紹介いただきました。

激闘を物語るTシャツ。「(私でもやればできるんだ)」と思うと嬉しくなりました。

鏑木賞でもらった、鏑木さんが実際にレースで着用していたノースフェイスのTシャツ。

プロフィール:三重県津市出身。2019年にテレビでウルトラトレイル・マウントフジ(UTMF)のドキュメンタリー番組を観て、トレイルランニング競技について知り衝撃が走る。

 

「やってみたい!」と思ったものの、最長で5㎞しか走ったことがなくマラソンの完走経験もゼロ。2019年9月にトレイルランナーズ大阪の東山公園の入門ツアーでトレイルラン初デビューを飾る。以来山の魅力にハマり、トレイルのレースにも数多く出場。

2021年に多度山トレイルラン(チャレンジの部)、養老山脈レイルラン(ショートの部)、石津御嶽登山競争を時間内完走。夢は、「いつかUTMFに参加すること」。


正直僕も時間内完走できるとは、それも1時間も早くゴールするとは思っていなかったので、鏑木さんと同様にびっくりしました。


名古屋の東山公園の入門講習会に5度参加(最多記録保持者)をしてトレイルの基礎を学んだだけあります。鏑木さんもびっくりのNさんの成長。


Nさんは僕がそれぞれのトレイルの基本ができているかokを出せる、まわりの人にお手本の動きを見せることができる数少ないランナーです。


ブログタイトルに「最後尾ランナーの視点」と書きましたが、Nさんはもう最後尾ランナーではありません。おめでとう!

Never Stop Running.

 

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