こんにちは。

トレイルランナーズ大阪の安藤大です。

 

 

「激走24時間!世界遺産カッパドキア一周トレイルラン119km(5)レース後編/Salomon Cappadocia Ultra-Trail 119km」をお届けします。

 

夜の写真は一枚もないので、日中の写真でレポートをお楽しみください。レース後にアップされた500枚以上の写真の中から、自分の写真を探したがほとんどがカットされており2枚のみ。結構ポーズを決めたのに悲しかった(涙)

 

・63kmのエイドを出発

ショートやミドルの部の選手とコースが分かれた途端、前後に誰もランナーがいなくなった。心細く何度も振り返るが誰も追って来ない。行くしかない。農道の脇に野犬が一匹いた。「吠えるなよ…吠えるなよ…」そろりそろりと通過しようとしたら、「ワン!ワン!ワン!」吠えた!大人しそうに見えた犬がとつぜん血相を変えて吠え出す瞬間がたまらなく嫌いだ。

 

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・雷雨

とつぜん空が急に暗くなり、ひんやりした風が吹きはじめた。「ゴロゴロ、ゴロゴロ…」雷雨だ。木のない広い草原に、一番背の高いのが僕。今にもどこかに落雷しそうな勢いだ。恐ろしい。コーステープが雷雲とは反対にそれて「やった!」と安心したのもつかの間、コーステープは雷雲の方向に向かっていく。

 

ここから気持ちは、タイムを意識するよりもサバイバルモードに切り替えた。体力を温存し、ひたすらに歩いた。バカげた風に聞こえるかもしれないが、空が光った瞬間にすばやく走って雷を避けようと考えていた。死なないことが一番大事だ。

 

再び山の中へと入り、目の前の光景にがくぜんとした。川の中にコーステープが続いていた。本来は干からびた水たまりのコースだったのが、小雨が降り続いたことで川になり始めていた。「もうすぐ夜になるのに、川の中を歩かせるなんて主催者はいったい何を考えているんだ」頭上は雷雲、身体は汗で濡れ、手にはトレッキングポールを持ち、僕は川の中を歩いている…感電死しても仕方がない。身が縮む思いをしながら進んだ。

 

・76.5km地点 3つの登り難所

119kmの部は、レース後半に3つの大きな登りが控えている。

 

・泥沼地獄

80kmを超えたら、「さあ、予定どおりペースアップしよう」と考えていた。ところが、想定外の出来事があった。少し進むと、足元が田んぼの肥えだめのようにぐちゃぐちゃになってきた。ごきぶりホイホイのようなひどい粘着質の泥道だった。


80km近く走ってきて、両足に1kgの泥のアンクルウェイトをつけて山登りしているかのようだった。「これは修行か…」シューズに泥がついて重すぎて足が上がらず、上りも下りもまったく走ることができない。あとで聞いて知ったことだが、雨が降ってトレイル環境が一変したらしい。雨が降る前に通過できた上位50番ぐらいまでのランナーは、「泥の道?何の問題もなく走れたよ」と話したのでタイムによって明暗が分かれたようだった。やがて日が落ち、暗闇に突入した。僕は真っ暗な泥沼の中をえんえんと歩き続けていた。「主催者はいったい何だってこんなコース設計にしたんだ!」とボヤいた。

 

・87.8km地点

足に重りをつけたかのように泥の中を歩く苦行が2時間近く続き、計画より大幅に時間をロスしエイドに到着。本気でここでやめようと思った。どこも悪くはなかったが、まったく面白くなかったからだ。僕は夜に森の中をナイトランするのが大好きだが、砂と荒野のカッパドキアは、夜に走ってもまったく面白くない。冷静に考えていればわかったことだった。さらに両足に1kgの泥の重りをつけたまま、歩き続ける苦行がこのあともずっと続くのかと思うとうんざりした。

 

それはどのランナーも同じ気持ちのようだった。エイドには「ふざけるな!」と怒って到着したランナーもいれば、「スペシャルプレゼント!」と表現したランナーもいて、反応を見ていると面白く元気が出た。

 

死ぬこと以外は大丈夫。先へと進む決心をした。

 

・砂嵐

2つめの上り。標高が上がるにつれて、急速に風が強まり、台風なみの強風となった。地面の砂利が風に舞い、顔に叩きつけられた。みるみる目に入れたコンタクトレンズが汚れていくのがわかった。「目が痛い!痛い!」目をいっさい開けていることができないので、両目を閉じたままで、自動車一台が通れる幅の林道の上りを歩き続けた。砂地のカッパドキアで強風が吹けばどうなるか、予想できたことだった。あらかじめ予想できていればメガネや度なしサングラスを用意していただろう。準備不足だった。まだまだ自然から勉強させられることがある。

 

「目が痛い!痛い!」この日はじめて立ち止まった。風は一向に収まる気配がない。そこへ一人男性ランナーがやってきた。「大丈夫か?ひどい砂嵐だな。一緒に行こう!」その男性の背中に張りついて、どうにか砂嵐をくぐり抜けることができた。感謝。

 

・100km地点

足裏が痛い。一歩一歩ごとに足裏から脳へと激痛が走る。疲れで足裏のアーチが下がり、地面からの着地衝撃をダイレクトに受けはじめているのだろう。長距離を走っているのだから当たり前だ。「こんなの気のせい」と考えて乗りこえる人がいるらしいが、痛みは現実に起きている。気のせいじゃない。

 

足が痛い。練習量不足なのだから「当たり前」。

足が痛い。フォームが悪いのだから「当たり前」。

足が痛い。長距離を走っているのだから「当たり前」。

 

「気のせい」ではなく「当たり前」と考えるが正しいように思う。

「すべては当たり前」と自分の中で痛みをしっかりと受け止め、前進すること。

 

・110km地点

ゴールまであと9.7km。最後の一山。順位は記録の結果でしかない、と考えているがここからは違う。自分の力で生み出す順位だ。目の前に見えるライトを全部追い抜く、そう決心した。自分の足が痛かろうが知ったこっちゃない。他人事だぜ。

 

上り斜面にライトが5つ見える。「あの5つのライトを追い抜けば、5順位アップか…おいしい」5人をパスし、峠を越えたら今度は前にライトが3つ見えた。「あの曲がり角の先にもう1人いるかもしれない」そう考えて、一切後ろを振り返らずにひたむきに走った。もう110kmも走った足なのに、自分でも信じられないぐらいに足が動いた。キロ4分台で走っていた。100kmを超えてこのスピードで走って追いかけてくる選手はいないことはわかっていた。「いったいどのぐらいのペースで走っているのか」あとでGPSをチェックするのを楽しみにし走っていたのだが、ここでスマホに時計のバッテリーも切れていた。がっくり。

 

街までもうすぐ、というところでコース脇に野犬が2匹いた。ハスキーなみの大型犬だ。ランナーたちのまわりをぐるぐるとまわり、いまにも噛みつきそうな勢いで吠えている。「今は走り抜けてはダメだ。」熊に襲われたときの対策と同じで、野生動物の前では後ろ姿を見せてあわてて逃げ出してはいけない。逃げるものは追いたくなるのが動物の本能だ。

 

僕はトレッキングポールを両手で掲げ、自分を大きく見せ、そろりそろりと歩きながら犬が追ってこれない範囲まで移動した。

 

「今だ!!」

 

そこからゴールまで5kmはがむしゃらに走った。犬に追いかけらているかの気持ちで走った。街の急坂も全力で駆けた。ゴールゲートまで全力ダッシュをした。人間、生命維持機能が働くから山の中では力をセーブしているものだ。

 

このTシャツを着て走るというのは、スローガンに込められた想いを背負って生きることに近い。


結局、ラスト8kmで23人抜いた。一人ひとり数えた。レース前に掲げた目標、「ラストで目の前に見える全員を抜き去る」は達成できた。119kmの長距離レースで、それも330人しか参加者がいない中で、それだけ多くのランナーが短い時間内に集まっていたことに驚きだったが、それだけレースゲームは僅差だったということ。自分のすぐ後ろには、あるいは前には誰かしらがいる。僕はレース中は常にこれを念頭におくようにしている。

 

もし僕がほかの選手と同じように「もう時間内完走はできるから」「ゴールはみえているから」という気持ちでのんびりと進み続けていたとしたら。

 

最後は「走れるか走れないか」ではなく、「走るか走らないか」だ。

 


どんなレースでも出場したからには完走しなければならない、というわけではない。リスク管理を最優先し、リタイアする勇気をもって無理のないレースをする。しかし、それが安易にあきらめる理由になってはならない。

 

決してあきらめない。

Never Stop Running.

 

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