トレイルランナーズ大阪の安藤大です。

 

4月22日(土)午後4時にドイツで行われたウルトラマラソン財団が「世界で最も過酷な階段レース」と評するエベレスト階段マラソンレース。

 

本日はいただいたレースに関するご質問にお答えします。今回は誰にも伝わる単純で過酷なレースなだけに「足が痛くならなかったか」「やめたいとは思わなかったか」といった質問が中心になりました。

 

いったい何人ぐらいのランナーが参加していましたか?

2015年に競技スポーツとなってからは参加人数も絞られ、リレーチームも含めた全体で180人程度、ソロ出場は87人(男子76人:女子11人)でした。2011年には「700人のランナーが参加」「2012年の完走者は35人で5%」とあり大会に参加する前は「一つの階段をそれだけの大人数が走るのか」と渋滞やランナーとの衝突を心配していましたがリレーチームを含めた人数だったようです。

 

いったいどんな人たちが出場していましたか?

24時間階段をひたすら上り下りし続けるような過酷なスポーツ競技に「一体どんな人たちがチャレンジするのだろう?」と僕もレース前から興味を抱いていました。参加者にロードランナーは少なく(何人かはいましたがマラソン3時間以内クラス)多くはアイアンマン・トライアスリートやUTMBなど100kmを超えるウルトラトレイルランナーでした。一般的に考えればロードランナーの方がマラソンを完走して、「さあ、次は階段マラソンにチャレンジしよう」とは思わないですよね(笑)僕が考えるマラソン愛好家とトレイルランニング愛好家の違いは、前者は平地や比較的ゆるやかな坂を好み、後者は変化に富んだ起伏のある地形を好みずっと平地続きはあまり好まない傾向にある。だから階段マラソンなどに出場しようと考える人はミドル、ロングとトライアスロンを完走し新たなチャレンジを考えている人か、トレイルランナーかになるのだと思いました。

 

階段を何往復したのかはどのように数えていたのですか?

自分で周回数を数える必要はありませんでした。カウントタイマーを購入していたのですが不要でした。階段の上下には液晶掲示板があり、足元の計測板を通過するごとに自分の周回数や現在の順位がランキングで表示さまます。かなりお金がかかっています。ちゃんとしたスポーツ競技だなと思えますし、自分の残り周回数や順位を見てモチベーションアップに大きく繋がりましたね。たとえば自分のペースは変わらないのに順位がどんどん上がっていく時には、誰か休憩したのかあきらめたのかとか想像します。だから単純な階段の往復にもほとんど退屈せず、レース中は興奮して仕方がなかったですね。

 

足は痛くならなかったのですか?

そりゃあ、痛いです。24時間、アスファルトの階段をひたすら上り下りし続けるわけですから。ランニングはボクシングのスポーツと似たようなもの。打ったら打たれるスポーツです。マラソンやウルトラマラソンといった長い距離を走って、一発も打たれずにゴールしようという考えは僕にはないんです。ゴルフやテニスのような球技スポーツではなく、僕にはランニングというエンデュランススポーツにチャレンジしていることの自覚があります。フルマラソン以上のランニング距離や時間に挑戦すれば、足の一つぐらいは痛くなるでしょう。自分のフォーム不良が原因で足が痛くなるというのは問題ですが、オーバーユースで足の一つも痛くなるという意味です。ちょっと足が痛いぐらいで練習を休んだりレースをあきらめたりしていては大きなことを成し遂げられない。僕はそう割り切っています。だからといって「ランニングでよりよい成績を目指すためには故障するもの」という考え方は危険だし、無茶は禁物です。

 

ランナーの格言「No Pain, No Gain.(苦しみなしに得られるものなし)

 

疲れてやめようとは思わなかったのですか?

やめようという気は一度も起きなかったですね。招待選手として呼ばれているし、多くの人に宣言してしまっているし、航空券45万円払っているし(笑)僕には「達成しない」という選択肢がなかった。人間には努力に時間、お金を費やした分だけそれを取り戻そうという意志が働きます。そうした感情は本来自然を舞台としたトレイルランのレースでは安全の判断を鈍らせ危険になりますが、今回はロード(階段)、アスファルトのロードレースだったので思う存分走ることができました。苦しいとかもなかったですね。上の写真をご覧になられた方はそうは思われないかもしれませんが(笑)42km、4,420mD+までは笑顔で観客に手を振る余裕もありましたが、そこで「エベレスト標高までまだ半分」そう考えた途端に苦しいというよりは「僕はとんでもないものに挑もうとしているのかもしれない」という思いを抱き始めましたね。階段でもエベレスト標高まで登ることは大変でした。山登りの方が楽かもしれない。上るばかりでなく、上ったら下るを繰り返さなければならないので。足への負担が大きい。

 

そもそもなぜそんな過酷なレースに挑戦を考えたんですか?

山登りだとその山の高さ以上には行けませんが、階段を上り下りしてだったら宇宙までも行けるじゃないですか。それが僕がこの大会を選んだ一番の理由でした。僕は「いつか宇宙を走る」と公言していますが宇宙へ行くためには宇宙船などの問題があるので、まずは階段でもいいんじゃないかと。結果はエベレスト標高を達成しただけで満足してしまい宇宙までとても辿り着けませんでした(笑)

 

 

表彰式はテント内ではなく屋外で行われた。強風が吹きすさび体感気温は日本の真冬並みの寒さで「何も外で行わなくても...」と何度思ったか。表彰式を屋外で、山頂の180℃大パノラマ絶景ビューポイントで行うことは素晴らしいと思った(寒くなければ)。

 

リザルト:男子優勝

男子1位は20代の看護士でウルトラマン・トライアスロンのチャンピオン(スイム10km、バイク420.6km、ラン84.4km)Stefan Wilsdorf。

 

「そんなトライアスロンの距離があるのか!?」と知って驚いた。アイアンンマン・ ディスタンス(スイム3.8km、バイク180km、ラン42.195km)よりさらに長い、複数日程にわたる究極のトライアスロンだという。彼はエベレスト標高に到達した後も階段をひたすら上り下りし続け階段の往復で115km、12,140mD+以上走り、宇宙の高さまで行ってしまった。「人間は階段で宇宙まで行けるのか」と驚いた。それも24時間で。彼は2016年に初参加しそのときはエベレスト標高を達成した自分に満足してしまったそうで、レース前には「今年は大会記録更新のためにトレーニングしてきた」と語っていた(結果は記録更新ならず)。

 

リザルト:女子優勝

女子1位はアイアンマン完走者で"不屈の階段の女王"、2015年、16年、そして17年と3連覇ディフェンディングチャンピオンで大会記録保持者、Antje Mullerが優勝。

 

この大会に3年も連続出場…彼女は女子で唯一、エベレスト標高に到達した後も階段をひたすら上り下りし続けていた。身体が長時間の過酷な運動により拒否反応を起こしているのか、階段を下り続けたことによる胃へのストレスか、コース上で嘔吐していたが、すぐレースに戻り走り続ける強靭な精神力に僕は尊敬の念を抱いた。全選手がレース後半には歩きも入る中で、彼女だけは100km近く坂道は歩かずに走り続けていた。僕はレース中に何度も「すごい!」と称賛の声を送り、お互いに励まし合う仲となった。

 

全員集合でジャンプ!

 

僕が達成できたのは特別な才能、特別な場所で生まれなければ自分で大きなことを達成できる可能性は低い、そんな思い込みを捨てたからだと思っています。

 

重ね重ね応援ありがとうございました!

 

次回は「エベレスト階段マラソンのレース展開編」。

 

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