こんばんは。
トレイルランナーズ大阪の安藤大です。

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マチュピチュマラソンのスタート直前。

深夜2時に起床。
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テントを出ると小雨が降っている。幸運にも気温は暖かい。20℃ぐらいだろうか。レースの準備を済ませ、歩いて約30分のスタート地点へと向かう。スタートするまでに身体が冷えないよう「スタート前に不要なウェアは預かるから厚着するように」という主催者からの強いアドバイスがあった。今いる場所ですでに標高は2500m。これから夜中に見知らぬ土地の標高3600mと向かう。国定公園であるマチュピチュではコース上にマーキングテープをつけたることは一時的であっても禁止されている。つまり、コーステープはない。むろんスタートゲートやゴールゲートもない。日ごろレース前に緊張はしないが、この時ばかりは緊張が走った。完走できるかどうかはわからない。でも今日もそのための準備をしてきた。レースで緊張しないためには日ごろの猛練習しかない。

【登場人物】

・エドワルド スペイン出身。ピレネー山脈の麓に在住。

・ビル アメリカ・ニューヨーク州出身のベアフットランナー。従業員150人を抱えるシステムエンジニア会社の社長。7年前に「ボーン・トゥ・ラン」を読み、以降自宅のシューズをすべて処分して家族全員サンダル生活に。日常生活からジョグ、レースまですべてサンダルで過ごす。

・ビート スイス出身。スイス国内の数多くの難関コースを完走。


悩みに悩んだあげくレインジャケットは防水だが薄っぺらい軽量のものではなく、しっかりとした生地のものをもっていくことにした。最近はある程度の耐水性を備えて、最軽量性をうたうレインジャケットが次々と発売されているが海外レースでは「そんな薄っぺらなジャケットで出場を許すことはできない」と拒否されることが多い。身の安全を第一に考えれば初心者には雨具の購入は生地のしっかりしたゴアテックスのジャケットをおすすめする。

スタート地点に立つランナーの中にはポンチョやウィンドブレーカーの人もいた。これから富士山以上の標高へ行くのに無謀すぎる。彼ら彼女らは天候が悪化すればリタイアを余儀なくされるだろう。暑くても人間はそう簡単に死ぬことはないが体温低下は命に直結するため、侮ってはいけない。距離はマラソンと同じだがこれはトレイルランレースなのだ。


【スタート!】
主催者のカウントダウンでレースは始まった。むろん号砲はなしだ。やはりルイスとビルの2人が勢いよく飛び出した。僕はその後に続く。彼ら2人は登りを「休まず走るタイプ」、僕は「走りと歩きを交互に入れるタイプ」。どちらが後半に足を残すか。高地では最初から下手にペースを上げず、じっくり体の反応を見ながらレースをするのが特に大切だ。4番目を走るビートも健脚ランナーだが途中で高山病に悩まされ、レース中に姿を見ることは一度もなかった。


序盤から標高3642mのChaksachaxまで1000m登る。国内でいえば燕岳ぐらいの標高から富士山山頂を目指すようなもの。街明かり一つないトレイルは真っ暗で、片側は崖になっているところもあるが、こうした不安を感じる場所でこそ僕の強みを発揮しやすい。ナイトトレイルが大好きなのだ。闇が深ければ深いほど内に眠る野生が呼び覚まされる。


どこで仕掛けるか。


互いに様子見が続く。これはハーフマラソンのショートレースではない。ゴールには少なくとも8時間はかかるウルトラマラソンレースなのだ。戦術は「中盤までは力を温存して、中盤からの下りで加速をしよう」 と考えていた。1番になるためには先頭ランナーの背後につき、必要以上に速く走らず、最後の最後で加速して抜き去るのが賢い戦術だ。「大会新記録を狙う」のと「1番を狙う」のとでは戦術が大きく違う。


途中のエイドでエドワルドが立ち止まった。僕やビルは水の補給の必要はなかったがエドワルドをしっかり待ち、補給したのを確認して再出発。まさに三位一体だ。互いに夜の間は一緒に進みコースロストしたくないという思いがあったのかもしれない。


標高3642mの折り返し地点に到着。スタッフいて自分の名前を告げ、名簿にチェックしてもらう。辺りが暗いこともあって名前探しに手間取る。3人の名前が確認された後で出発。ここでルイスが早くもスパートをかけた。ビルは用を足したために一人出遅れた。僕は中間地点のインカトレイル最高点までは一緒に進むと思っていたので意表をつかれた。この下りで追随するか、スピードを抑えて大腿四頭筋を後半に休ませておくか。途中まで追随していたがやがてルイスの姿は見えなくなる。標高は富士山近いというのにキロ5分よりも速いスピードで起伏を走っていた。その後登りでビルに追い抜かれた。
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標高4200mのDead Womans Pass/デッド・ウーマンズパスに向けて1250mの登りだ。関西の人には富士山山頂から大阪府の大和葛城山や金剛山の急階段を登るといえば過酷さが伝わるだろう。あとで知ったことだがあまりの苦しさに途中で引き返した女性ランナーも数人いたらしい。


標高2600mぐらいは空気が少し薄く感じる程度でトレーニングした身体には大したことないが、3600mを超えれば足どりは鉛のように重くなり、まるで深い海へと潜っていくような感覚た。低酸素ルームでは経験していない世界なのだ。


登りの技術は脳の話にまで発展するほど奥深い。


"無心"になり、頂点を目指す。実は一番酸素を使うのは脳なので、“無心”でいることが一番いい。「あと何キロ」「あと何分」「どこに足置いて…」などと考えることは無駄に酸素を消費し、息が上がるだけだ。は大きく深呼吸していた。「富士登山の最高点到達記録を更新できる」ということに興奮していた。
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振り返るととにかく景色が美しい。僕が息を切らす中、空中で羽ばたきし静止する(ホバリング)鳥を見て野生動物のパワーに驚くしかなかった。
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登りでビルに追いつき、同時に最高点に到達。互いにハイタッチを交わし、山頂標識の前で記念撮影を楽しんだ。海外レースは異国のランナー同士が親睦を深め、国際交流するための方法でもあるのだ。

「さあ、ここから下りだ」 勝負をかける時間がやってきた。今僕はレースを心から楽しんでいた。

続く。
 

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