前回の話からの続き


・W2粟倉64.4km(標高604m)―A4富士山こどもの国(標高923m)区間距離14.9km
「制限時間46時間の間、寝ない。」というのが一つの戦略だった。けれど、途中で昨年のUTMFやウルトラトレイル・デュ・モンブラン(UTMB)、極寒の八ヶ岳スーパートレイルを完走した、100マイルレース経験豊富な知人ランナーと並走。その知人から、「30分でも寝た方がいい。そうしないと後半、突然動けなくなる時が必ずくる。」というアドバイスを受け、素直に従うことに。「79.3km地点のA4富士山こどもの国で45分仮眠しよう。」と決め、ずっと走り続けていた。これが正解で、仮眠後は嘘のように足がフレッシュになり、軽やかに走れるようになった。人間にとって睡眠がいかに大事か実感した瞬間であった。

A4の入り口で、ちょうどエイドからでてきた大石由美子さんとすれ違う。大石さんは、ハセツネCUPやIzuTrailJourneyなど多数のレース優勝経験などがある、女子トップランナー。「ヘッドランプ消した方がいいですよ。」と声をかけられた。恥ずかしい。どうやらヘッドランプの灯りを消し忘れたまま、朝を迎えたようだ。なぜ、ここで大石さんが...日ごろタイムや順位などは気にせず、トップ選手や知っているランナーのゼッケン番号をあらかじめ調べてておき、その選手の存在でおおよその順位を把握している。大石さんの調子が悪いだろうか、それとも僕のペースが快調なのか。(実際は、このエイドでは女子5位でゴールした鈴木博子さんと近いタイムの方が寝ており、まだ28、29時間台を狙えるペースで来ていたようだ。)

(A5水ヶ塚公園―A6富士山御殿場口太郎坊―A7すばしり)
2歩進めば1歩下がるというような砂利道。思うように前に進まない。ここまで来たランナーの足には負担となる。僕は裸眼の視力が悪く、コンタクトのため、砂煙の舞うこの区間は一番心配していた。実際は替えのコンタクトやサングラスを用意していたこともあり、全力疾走に近いペースで下ることができた。役立ったのは、ゲイター。砂利や石がシューズ内に入ることを防ぐ。効果は抜群。もしゲイターがなければ、シューズに砂利や石が入りこみ、うまく走れなかったことだろう。

(A9二重曲峠~A10富士小学校)
杓子山。天子山地に続く第二の難関。ただ天子山地のインパクトがあまりに大きかったためか、あっさりと山頂に到達。この区間は前後に人がおらず、数少ないレース中の一人山行だった。"急な岩場登り"とは聞いていたが、冷たい風の吹き荒れる、90度近い絶壁を両手両足、ロープを使ってよじ登る場面も。そこまでとは聞いていなかった(笑)。知らずにここまで来た、高所恐怖症の方はどうやって進むのだろう。足を一歩滑らせれば滑落もありうる集中力を要する場所。(レース中は「こんな崖で...」と思う危険箇所にスタッフの方が待機サポートしており、驚くと同時に本当に感謝。)岩登りでは、「足をあげるときは壁と体の間に空間をつくる。」「手でホールドするときは体を壁に近づける。」ボルダリングで学んでいた基本が役立った。

(杓子山山頂付近)
真っ暗なシルエットの富士山と満月。そして、光輝く街並み。今大会で見た富士山の中でも一番の景色だった。身を縮めなければいられないような、断崖絶壁の上に横たわり、写真撮影。ただ真っ暗で、なかなかその美しさをうまく撮影できない。むしろ富士山よりもこの時の僕の姿を撮影したいぐらいに、笑えるような場所と姿勢だった。5分以上はいただろうか。後続ランナーの気配はない。おそらくどこかで渋滞しているのだろう。結局写真を撮るのはあきらめて、A10富士小学校へ向かうことに。

―ドロップバックに入れておいたものは?
レース後半のサプリメントや故障した場合の代替ヘッドランプ、乾いた着替えの衣類。冷えのメカニズムは、水分が蒸発する際に周囲から熱を奪う気加熱のせいで体が冷えます。その濡れたウェアのまま走り続ければ、さらに体を冷やすことになります。走っているうちはいいですが、エイドでの休憩や山頂や稜線などで風にさらされた場合には最悪の状態に。A4富士山こどもの国で着替えたのは、大正解の一つ。

A10富士小学校から感動のゴールへと続く。