こちらは23歳という若さで帰らぬ人となった、夫の叔父(父方)のお墓です。
親が子供のお墓を建てる。それは、人生において最も過酷で、本来あってはならない、言葉に尽くせない葛藤の連続だったでしょうね、と思います。
さて、今日は、私たちの身に起きた信じられないような数奇な巡り合わせについてお話しさせてください。
夫の叔父は夫と同姓同名でした。残念ながら、運転していた車が踏切で電車と衝突するという不慮の事故で亡くなっています。
物語の始まりは、今から八十年も前に遡ります。
叔父は、出生 1923年 没 1946年 なので、わたしたちが生まれる前の話しです。
彼は、二十三歳という若さで、踏切事故によりこの世を去ったのですが、
当時、彼にはKさんという恋人がいました。
ある日、別の男性のもとへ向かおうとする彼女を追って車を走らせたそうです。
そして運命の悪戯か、焦りの中、踏切で電車と衝突してしまいました。
駅のホームにいたKさんは、その事故の一部始終を目撃してしまったといいます。
当時の新聞にも大きく取り上げられるほどの凄惨な事故。
その後、事故のショックで心を病んだKさんは消息不明となり、夫の一族にとっても、この出来事は長く、謎に包まれた過去となっていました。
時が流れ、私の夫が生まれたとき、義母は亡くなった叔父とまったく同じ名前を夫に付けました。
なぜ、それほどまでに儚い最期を遂げた人の名を授けたのか?
私には理解しがたく、ずっと不思議でなりませんでした。
ですが、十数年前、この名前が奇跡のような再会を引き寄せたのです。
きっかけは、私の娘でした。
移住後、それまで学んできたこととは全く違う分野「介護」の道を選んだ娘に、当時はなぜその仕事を?とツッコミを入れたくなったものですが、今思えば、彼女は何かに導かれていたのかもと思えるようになりました。
ある日、娘はアルツハイマー病を患う90歳近い女性の担当になりました。
その方こそ、あの「Kさん」だったのです。
娘の胸にあるネームタグを見た瞬間、Kさんの目にパッと光が宿ったように見えたそうです。
「〇〇(夫と同姓同名)という人を知っている?」
「〇〇はね、踏切事故で亡くなったの」
突然のことに、自分の父のこと?と、娘は混乱しました。
でもすぐに父と同じ名を持つ叔父のことを思い出しました。
Kさんは娘の頬を優しく撫でながら、「あなたに会えて本当に嬉しい」と涙を流して喜ばれたそうです。
かつての恋人の血を引く娘との、時を超えた再会です。
一族の誰もが知らなかった過去の真実が、ついに紐解かれる瞬間です。
そう期待した親族たちから「もっと詳しく聞いてきて」と頼まれた娘は、翌日、再びKさんのもとを訪ねました。
けれど、Kさんは、もう何のことかさっぱり分からない様子だったそうです。
話しを聞けなかったのは、残念でしたが、
あの日、アルツハイマーを患う彼女を一瞬だけ正気に戻した「名前」の威力には、ただただ驚かされるばかりです。
義母が叔父の名を夫に託したのは、早世した叔父の分まで、夫に健やかな人生を全うしてほしいとの切なる願いだったのでしょう。
かつて叔父が夢見たであろう、愛する人と過ごす穏やかな日常。
しかし、実際の生活においてその幸せの正体が、妻のわがままに振り回される日々であることを知ったら、天国の叔父さんも苦笑いしているかもですね(笑)

