防衛機制とは・・・
防衛機制(ぼうえいきせい、defense mechanism)とは、危険や困難に直面した場合、受け入れがたい苦痛・状況にさらされた場合に、それによる不安や体験を減弱させるために無意識に作用する心理的なメカニズムのことである。
通常は単独ではなく、複数の要因が関連して作用する。
■抑圧
欲求不満や不安を無意識に抑え込んで忘れてしまおうとする。
■合理化
最もらしい理屈や理由をつけて正当化しようとする。
例)仕事の失敗を、無理やり押し付けた上司のせいにする。
■同一視
他人の長所や能力・実績をまねして自己評価を高めようとする。
例)有名人の服装や言動を真似る。
■投影(投射)
自分の後ろめたい感情や衝動を他人のものとして非難する。
例)自分が嫌っているのに、相手が自分のことを嫌っていると思い込む。
■反動形成
抑圧されている感情や態度が、正反対の行動として表れる。
例)相手に好意を抱いているのに、悟られないために素っ気ない態度をとる。
■逃避
困難な状況から逃れようとする。状況から逃避する場を設ける。
例)試験前に大掃除をする(現実への逃避)。
試験前に高熱や腹痛を訴える(病気への逃避)。
試験前に将来の夢や試験後のことを想像する(空想への逃避)。
■退行
幼児期など、現時点の発達の前段階に逆戻りする。
例)赤ん坊のようにふるまって他人の気を引こうとする。
■代償
ほかの欲求に置き換えて満足しようとする。
例)勉強ができないからスポーツで活躍する。
■昇華
社会的に承認されない欲求を文化的・社会的に望ましい価値あるものへ置き換える。
例)失恋を機に勉学に励む。
元々はジークムント・フロイトのヒステリー研究から考えられたものであり[2]、後に彼の娘のアンナ・フロイトが、父の研究を元に、キンダー・トランスポート(英語版)でイギリスに連れてこられたユダヤ人の子どもたちのケアをしながら行った児童精神分析の研究の中で整理した概念である。その経過は、アンナ・フロイト著作集の第7・8巻の「ハムステッドにおける研究 : 1956-1965」に詳しい。この研究の舞台になったハムステッドのクリニックは、今のアンナ・フロイトセンターである。
防衛機制には、発動された状況と頻度に応じて、健康なものと不健康なものがある[3]。精神分析の理論では、防衛機制は無意識(スーパーエゴ)において行われ、不安や受け入れがたい衝動から守り、自分の自己スキーマを維持するためになされる、現実の否認または認知の歪みといった心理的戦略であるとされる[4]。
ジークムント・フロイトにおける厳密な定義によれば、あらゆる欲動を自我が処理する方法が防衛である。よって人間は常に欲動を防衛している事になる。人間の文化的活動や創造的活動は全て欲動を防衛した結果であり、その変形に過ぎないとされている。しかし一般的には防衛は、自我(あるいは自己)が認識している、否認したい欲求や不快な欲求から身を守る手段として用いられると理解されている。
最初にフロイトが記述した防衛機制は「抑圧」である。アンナ・フロイトは主要な防衛機制として、退行、抑圧、反動形成、分裂、打ち消し、投影、取り入れ、自己への向き換え(自虐)[注 1]、逆転[注 2]、昇華の10種類を挙げている。またフロイトの弟子であるメラニー・クラインは、分裂、投影同一視、取り入れなどの原始的防衛機制の概念を発展させた。
原始的防衛機制
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原始的防衛機制とは、自我の分離 - 固体化が見られる以前から見られる、生後5か月くらいまでの乳幼児でも用いることが出来る基礎的な防衛機制の総称である。自我心理学が発展したアメリカに対し、イギリスでは対象関係論が発展し、フロイトの弟子であったメラニー・クラインが児童分析や重い病理を持つ者の精神分析をしていく中で、この原始的防衛機制を発見し概念化した。対象関係論の「対象関係」とは、主である自分と対象(人間を含む)との関係のことである。フロイトは人間の超自我は4 - 5歳頃に形成されると考えていたが、クラインは、超自我の形成は母子関係が重要な意味を持つ生後1年以内であるとし、母親との対象関係を通じて超自我が発達すると説いた。
クラインの記述した原始的防衛機制は、分裂、否認、投影同一視、原始的理想化、躁的防衛などがある