前回は、アメリカ社会の根底にある「勝者か、敗者か」という二極化思想について考察しました。
今回は、それに並ぶ、あるいはその根幹をなす**アメリカの国民性を理解する上で最も重要な要素の一つ「反知性主義(Anti-Intellectualism)」**の伝統に焦点を当てます。
この「知識人や学識を軽視する」文化は、私たち日本人の**「先生の言うことは聞くべき」「専門家は尊重すべき」**という価値観とは大きく異なり、現代アメリカ社会の分断の背景を理解する上で不可欠です。
1️⃣ 独立と階級意識に根差す不信感
アメリカの反知性主義は、建国期の歴史と初期の移民構成に深く根差しています。
A. 独立戦争と「知識人=支配者」の構図
アメリカがイギリスから独立したことは、単なる政治的な分離に留まらず、支配階級からの精神的・文化的独立という意味合いも持っていました。
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初期の移民: アメリカ大陸に渡った初期の移民の多くは、イギリス本国で上流階級や国教会に反発を覚えていた非国教徒や一般庶民でした。
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不信感の刻印: 彼らにとって、複雑な知識や教養を持つ人々は、本国での**「支配者階級の象徴」でした。このため、「知識人や学識=人民を抑圧する権威」**という強い不信感が文化の根底に深く刻み込まれました。
この精神は現代まで受け継がれており、「専門家やエリートの意見よりも、現場で汗を流す庶民の直感や常識が正しい」という考え方につながっています。
B. 「反エリート感情」の政治利用
この国民の根強い不信感は、現代政治において強力な武器として機能します。
**「知識人や学識人への攻撃」は、国民の「反エリート感情」**に直接訴えかける手段であり、特に支持を得やすい傾向があります。
現大統領が、国内の大学、官僚、FRB(連邦準備制度理事会)など、専門知識を持つ機関を攻撃の対象とすることで、この感情を利用し、自身の支持基盤を固めている側面は、その典型的な例と言えるでしょう。
2️⃣ 現代政治と宗教・科学の対立 ✝️🔬
この反知性主義の伝統は、アメリカ社会で強い影響力を持つ宗教的な対立によって、さらに複雑に、そして強固に強化されました。
A. スコープス裁判と「神の教え vs. 科学」
約100年前の1925年、キリスト教の**聖書根本主義(Biblical Literalism)**を信奉する人々が、学校で進化論を教えることの是非を問う「スコープス裁判」を起こしました。
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「DNA」としての不信感: この裁判は形式的には進化論側が勝利しましたが、結果に納得できない信徒たちの間には、「高学歴なエリートたちが言うこと(科学、リベラル思想)は、神の教えを否定する悪魔的な嘘だ」という強い不信感が刻み込まれました。
B. 共和党支持基盤としての白人福音派
この流れを汲むのが、現在のアメリカ政治において共和党の強固な支持基盤となっている白人福音派と呼ばれる団体です。
彼らは高い政治的な組織力を持ち、建前上の「政教分離」を超えて政治に大きな影響力を行使しています。
彼らにとって、民主党は**「傲慢な世俗エリート(大学、メディア、科学者)」**という共通の敵として認識されています。この文化的・思想的な対立構造こそが、現在のアメリカ社会を深く分断している主要因の一つとなっているのです。
💡 まとめ:言語の裏側にある「不信」
私たちが英語を学ぶとき、彼らの言葉の裏には、知識や権威に対する根深い**「不信」**が潜んでいることを知る必要があります。
この反知性主義の伝統を知ることで、「なぜ彼らは専門家の警告に耳を貸さないのか?」「なぜ学歴が高い人ほど攻撃されやすいのか?」といった、日本人の感覚では理解しがたいニュースの背景が、より鮮明に見えてくるはずです。
🔔 免責事項 (Disclaimer)
本記事は、歴史的・社会学的な分析に基づく筆者個人の見解であり、特定の人種や集団を非難するものではありません。アメリカ国内にも多くの知識人や、科学を尊重する人々が存在します。本記事では、分断の背景にある「支配的な思想傾向」に焦点を当てて解説しています。
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