中国の大学病院や研究機関が、新型コロナウイルス(2019-nCoV)への感染が認められた患者や肺炎を起こした患者を対象に、臨床試験を相次いでスタートさせている。使用されている薬剤は抗HIV薬などに混じり、「ゾフルーザ」(塩野義製薬の抗インフルエンザ薬)や「アビガン」(富士フイルム富山化学の抗インフルエンザ薬)と同成分の薬剤も含まれる。日経バイオテクは中国で進行中の臨床試験24本を全て詳細に調査した(2020年2月4日にアップデート)。臨床試験の中には3カ月以内に終了を予定しているものもあり、結果が公表されるかどうか、どのような結果が出るかも注目される。

 日経バイオテクは、米国と欧州、そして中国の臨床試験登録システム(ClinicalTrials.gov/Chinese Clinical Trial Registry/EU Clinical Trials Register)を対象に調査を実施。2月4日の昼時点までに米国と中国の臨床試験登録システムに、新型コロナウイルス(2019-nCoV)関連の患者を対象に介入を行う臨床試験が計24本、登録されていることが明らかになった(診断技術の臨床試験は除く)。

 そのうち、伝統的な中国医学(Traditional Chinese Medicine:TCM)を施す臨床試験や、中国でインフルエンザに対して広く使われている「LianHua QingWen capsule(LQC)」を投与する臨床試験を除いた、計9本の臨床試験について詳細に分析した(表1)。TCMを施す臨床試験は介入の詳細が明らかではなく、LQCは日本では臨床現場で使われていないためだ。

表1 中国で新型コロナウイルスの患者を対象に実施されている9本の臨床試験(日経バイオテク作成)
(画像をクリックすると拡大します)

SARSやMERSに効いた薬を相次いで投与

 いずれの臨床試験も、大学病院や研究機関が研究費を拠出して実施している。そのデザインは様々だが、介入群に投与する薬剤として最も多かったのは、リトナビルとロピナビルの配合薬だった。ロピナビルは、HIVのプロテアーゼ活性を阻害して、感染性のある成熟したHIVの産生を抑制する作用機序を有する。また、リトナビルは、薬物代謝酵素のシトクロムP450(CYP)3Aにロピナビルが代謝されるのを競合的に阻害し、ロピナビルの血中濃度を上昇させる役割を担う。米国や日本では、米AbbVie社の抗HIV薬「カレトラ」(ロピナビル・リトナビル配合)として知られているもので、一部報道では、AbbVie社も臨床試験で投与されていることを認めている。

 リトナビルとロピナビルの併用療法は、過去にSARS(重症急性呼吸器症候群)コロナウイルス(SARS-CoV)に感染した患者への効果が示唆されており、サウジアラビアではMERS(中東呼吸器症候群)コロナウイルス(MERS-CoV)に感染した患者を対象に、ロピナビルとリトナビル、インターフェロンβ-1bを併用する臨床試験も実施されていることなどから、新型コロナウイルスに対する臨床試験にも用いられているとみられる。

 臨床試験の中には、抗インフルエンザ薬を投与するものも1本あった。具体的には、新型コロナウイルスへの感染が認められ、肺炎を起こした患者を3群に割り付け、バロキサビル マルボキシル、または、ファビピラビル、または、リトナビルとロピナビルの併用療法を投与するというもの。バロキサビル マルボキシルは、日本では、塩野義製薬の抗インフルエンザ薬「ゾフルーザ」として、ファビピラビルは、富士フイルム富山化学の抗インフルエンザ薬「アビガン」(ファビピラビル)として知られている。

 さらに、ステロイドのメチルプレドニゾロンを投与する臨床試験もある。具体的には、新型コロナウイルスへの感染が認められた患者を2群に割り付け、標準療法にメチルプレドニゾロンを上乗せした治療か、標準療法を実施するというもの。ただし、SARSやMERSでの経験から、ステロイド投与には予後を改善する効果がないことや、ウイルス排除を遅くすることなどが示唆されており、定期的な全身投与には否定的な見方もある。

 

首都圏における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者数増加が止まらない。4月1日の時点で東京都の感染者数は587人となり、オーバーシュート(爆発的な感染拡大)の懸念も広がる。医療現場の混乱を避けるためにはどうしたらよいのか。全国に先駆けてCOVID-19が流行した北海道で診療に尽力する感染症コンサルタントの岸田直樹氏に話を聞いた。(2020年3月24日に取材、文中敬称略)

きしだ なおき氏〇2002年旭川医科大学卒業。手稲渓仁会病院総合内科・医学教育フェロー、2008年静岡県立静岡がんセンター感染症科フェロー、2010年手稲渓仁会病院手稲渓仁会病院総合内科・感染症科感染症科チーフ兼感染対策室長などを経て、2014年より一般社団法人Sapporo Medical Academy代表理事。北海道科学大学客員教授も務める。

──現在の北海道の状況をどのように捉えていますか。

岸田 さっぽろ雪まつりに端を発し、北海道では2月後半から3月中旬にかけてCOVID-19患者が急増したが、この一連の流行はほぼ抑え込めたと見ている。流行のピーク時を振り返ると、医療現場はかなりギリギリの状況だった。例えば札幌市では、中等症以上も含めてCOVID-19患者を積極的に受け入れる感染症指定医療機関は2カ所しかない(編集部注:感染症指定医療機関は3カ所ある)。流行の拡大に伴い、感染症指定医療機関以外にも軽症者のみを受け入れる病院は増えたが、対応に当たる医師の数も少なく、担当医はかなり疲弊している状態だ。

──岸田先生はこれまでCOVID-19患者を何例ほど診られましたか。

岸田 感染症コンサルタントとして、これまで2施設で30症例近くのCOVID-19患者を診てきた。あくまで医師をサポートする立場ではあるが、ファビピラビル(商品名:アビガン)やロピナビル・リトナビル(カレトラ)、シクレソニド(オルベスコ)といった治療薬の投与に関するアドバイスなども行っている。

──新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)はどのような特徴を有するウイルスなのでしょうか。

岸田 SARS-CoV-2は重症化を引き起こしやすいことに加え、重症化までの経過が長いのが特徴だ。1週間ほど軽い風邪のような症状が続き、次の1週間で徐々に悪化、肺炎を呈するケースが多い。中には数時間で急激に悪化する場合もあり、症状が落ち着いている患者を診ていても安心はできない。

 一般的に、風邪から肺炎に移行し、重症化する場合は、ウイルス感染に次いで細菌感染を起こしていることが多い。しかし、SARS-CoV-2に感染すると、細菌感染がないにもかかわらず、このような経過をたどる。致死率もインフルエンザよりもはるかに高い。COVID-19を「ただの風邪」と捉えるのは非常に危険だ。

──北海道での流行を経て、医療現場ではどのような問題が浮かび上がりましたか。

岸田 一番の問題は、酸素の投与が必要となるような中等症以上の患者を受け入れる病院が不足していること。軽症者だけ、あるいは重症者だけを診る病院は存在するものの、中等症患者の受け皿となる病院が非常に少ない。これはマンパワー不足が最大の原因だ。入院時は中等症であっても、患者が重症化した際にはより多くの人手は必要になるため、そうした点を見越して中等症患者の受け入れを断る病院が多い。実際、ピーク時の札幌市内ではCOVID-19疑いの中等症患者の受け入れ先が見つからず、市外の感染症指定医療機関に搬送することになりかけたケースもあった。

 北海道の流行では今の東京と同様に、軽症者やPCRの陰性確認を待つ患者がベッドを埋め尽くすという事態も起きた。流行状況に応じて迅速に受け入れ基準などを変えていかないと、国が設けた基準が医療現場を圧迫してしまう、"自作自演"の医療崩壊が起きかねないと感じる。

──現在、首都圏を中心に患者数が急増しています。北海道での経験が生かせる点はありますか。

岸田 3月15日までに北海道では10人規模のクラスターが2つ発生したが、北海道の事例を経験して感じたことは、この程度のクラスターであれば、十分に戦える可能性があるということ。首都圏では感染経路が追えないケースも多発しているが、濃厚接触者を検査するなどの丁寧な対応をあきらめずに行うことが重要だと考える。

 ただ、今は北海道で流行が発生した時とは状況が一変してしまった。これまでは中国からのウイルスの持ち込みだけを注視すればよかったが、今や「感染の火種」は全世界に広まってしまった。世界各地で都市封鎖が相次ぐ中、封鎖前にそうした地域に赴任していた人々の帰国ラッシュに加え、春休み期間中で海外旅行者数自体が多くなっている。ウイルスが海外から持ち込まれるリスクや感染源が追えない患者の広がりは、これまでの比ではないということを医療従事者、一般市民ともに留意する必要がある。

 また、感染症指定医療機関などの現場は頑張って患者を受け入れようとするが、医療従事者のマンパワーを超えてまで受け入れてしまうと医療体制が破綻し、院内感染の発生にもつながり得る。同時に、保健所も「まだキャパシティに余裕がある」とみなしてしまい、受け入れ病院の拡大という次のステップになかなか進まない。各病院は「自分たちのキャパシティではこれ以上の患者は診れない」と、我慢せずに声を上げることも大切だと感じる。

──医療現場では、今後どのような対策が必要になるでしょうか。

岸田 他国では、ものの数週間でオーバーシュートが発生してしまっている。国内でも予断を許さない状況だ。今は特定の病院に大きな負担がかかっているのが現状だが、今後は各病院がCOVID-19患者を受け入れなければならない局面がやってくるだろう。厚生労働省が3月19日に都道府県などに宛てた事務連絡(3月26日に一部修正)では、ピーク時に保健所が入院患者の受け入れ要請を行う医療機関の順番の目安が示された。今はCOVID-19患者を受け入れていない病院でも、最悪のシナリオを想定した上でピーク時にCOVID-19患者を受け入れるための準備を整える必要がある。設定にリミテーションはあるものの、厚生労働省が発表した以下の数式が有用だ。この数式を用いて自院の診療圏におけるピーク時の外来受診者数、入院患者数、重症者数を計算し、それを基に必要な病床数、人工呼吸器などの医療機器、マンパワーの確保を行う。

ピーク時の各都道府県、保健所設置市及び特別区における外来を受診する患者数など

(ピーク時において1日あたり新たに新型コロナウイルス感染症を疑って外来を受診する患者数)=(0-14歳人口)×0.18/100+(15-64歳人口)×0.29/100+(65 歳以上人口)×0.51/100

(ピーク時において1日あたり新型コロナウイルス感染症で入院治療が必要な患者数)=(0-14歳人口)×0.05/100+(15-64 歳人口)×0.02/100+(65歳以上人口)×0.56/100

(ピーク時において1日あたり新型コロナウイルス感染症で重症者として治療が必要な患者数)=(0-14歳人口)×0.002/100+(15-64 歳人口)×0.001/100+(65 歳以上人口)×0.018/100

2020年3月6日厚労省事務連絡

 流行時には患者数の増加に伴い重症者数も日々蓄積していくため、院内の既存病棟をCOVID-19専用にすることも考慮するべきだ。病床数の増加に応じ、COVID-19対応を行うスタッフを他の診療科からかき集める必要もある。流行状況に応じて迅速に医療体制を変化させていくためには、今からオーバーシュートを想定したシミュレーションが欠かせない。先ほど申し上げた通り、医療現場のパンクを防ぐ上では、自施設のキャパシティを把握しておくことも重要となる。対応可能な患者数の上限を各病院が設定し、それ以上は受け入れられない旨をきちんと保健所に伝えることも必要だ。キャパシティ以上にCOVID-19患者を受け入れてしまい、医療現場の崩壊を招くような事態は避けなければならない。

フランス保健省の要請に基づいて、フランス公衆衛生評議会(HCSP)は、国内の腫瘍内科医と放射線腫瘍医の代表者からなるグループに、癌患者をSARS-CoV-2感染から守るためのガイドラインの作製を依頼した。ガイドラインは2020年3月10日に完成し、3月14日に採用が決まって、HCSPにより同日公開された。専門家グループのメンバーであるClaude Bernard Lyon 1大学のBenoit You氏らは、ガイドライン作成の経緯とその内容をLancet誌2020年3月25日にCOMMENTとして報告した。

 ガイドラインが作製された理由は、癌患者はSARS-CoV-2感染に関係する呼吸器合併症のリスクが高いことが示されており、インフルエンザを例とすると、癌患者の発症リスクは高く、発症すると呼吸窮迫により入院するリスクが一般のインフルエンザ患者の4倍で、死亡のリスクは10倍にもなることを示唆したデータがあるからだ。悪化しやすい理由は、癌治療により好中球とリンパ球が減少しているためと考えられている。

 癌患者のCOVID-19リスクは、Lancet Oncology誌にWenhua Liang氏らが投稿した、中国の状況に関するコメントに示されている。ここでは、癌患者のSARS-CoV-2感染リスクは一般集団より高いこと、ICU入院を含む重症イベントを経験する患者の割合も高いことが示されていた。リスクが特に高かったのは、COVID-19発症前1カ月間に化学療法または外科治療を受けた癌患者だった。また、癌患者では重症化するまでの期間も短かった。

 以下のガイドラインは、成人の固形癌患者のみを対象としており、フランスで一般の人々に適用されている標準的なルールを補完するものとして作成されている。

 基本的なCOVID-19予防策は癌治療部門でも実行できる。重要なのは、癌患者自身と腫瘍内科および放射線腫瘍科のスタッフが、COVID-19患者との接触を可能な限り避けることだ。腫瘍内科と放射線腫瘍科はCOVID-19フリーでなければならない。万一、腫瘍内科または放射線腫瘍科に入院している患者がSARS-CoV-2陽性と判明した場合には、すみやかに隔離し、COVID-19専門病棟に移さなければならない。

 癌患者の感染リスクが高いことから、患者が病院に留まる時間は最小限にし、自宅での管理を可能にするあらゆる方法を試みる必要がある。例えば、受診の代わりに遠隔医療や電話面談を実施し、化学療法やホルモン療法における静注薬は、可能な限り経口薬に置き換えるとともに、在宅で静注や皮下注を行うためのシステムを構築し、薬剤の配送する手はずを整える。さらに、化学療法を受けている患者については、投与スケジュールを調整し、放射線治療中の患者には小分割照射を適用するなどして、受診の頻度を減らす方法を検討する。さらに、転移の進行が遅い癌の患者については、腫瘍内科医の判断により一時的に治療を中止し、定期的な評価も2~3カ月おきにして、受診の機会を減らす。

 それでも一部の癌患者は、化学療法や放射線治療を受けるために受診または入院する必要があるだろう。そうした患者については、来院前に電話して、COVID-19を示唆する症状が現れていないことを確認する。症状がある場合にはCOVID-19病棟に紹介する。癌患者を守るために、外来化学療法センターも、椅子同士の間隔を広げる、パーティションを設置する、患者とスタッフがマスクを着用する、といった感染予防策を取る必要がある。

 COVID-19に感染していない癌患者や発症した後に回復した癌患者には、前述したような制限を実施しながらも癌治療を継続する。

 COVID-19患者が急増して、病院で癌治療を提供する機会が減少した場合、または感染リスクと生命を脅かす合併症のリスクが非常に高くなったら、癌治療を目的として入院させる患者を、癌の種類によって、または受ける治療に基づいて、選ぶ必要が出てくるかも知れない。優先順位付けは、行われる治療が治癒目的かそうでないか、患者の年齢、余命の予測、病歴(診断されて間もない患者、または、第1選択療法を受けた患者か、診断から時間をへて何種類もの治療を受けてきた患者か、など)、症状などを総合して行うことになるだろう。以下のような順位付けを提案するが、主治医と担当スタッフによる判断の余地も残す。

1)治癒目的の治療を受けている患者(年齢は60歳以下、または余命が5年以上、もしくはこれら両方に該当する患者が望ましい)
2)治癒目的ではない治療を受けている癌患者で、年齢は60歳以下、または余命が5年以上、もしくはこれら両方の条件を満たす、診断から時間が経っていない患者
3)治癒目的ではない治療を受けており、治療を中止すれば病巣が拡大する、または短期間のうちに、症状が生命を脅かすようになる患者

 支持療法(疼痛管理、細菌感染に対する治療、死亡前の緩和ケアなど)を受けるために入院が必要な患者は、一般的な癌治療部門に紹介するか、自宅でのケアの実施を検討する。

 以上をまとめると、癌患者はSARS-CoV-2に感染しやすいため、注意深く監視を続ける必要がある。癌患者がCOVID-19を発症すると、急速に重症化する危険性が高い。感染が判明したら、症状が完全に消失するまで、または主治医が判断するまで、全身性の癌治療は中止すべきだ。入院がどうしても必要なら、癌病棟ではなくCOVID-19専門病棟に入院させる。COVID-19ではない癌患者は、治療のための入院や受診の頻度を最低限にし、可能な限り在宅でのケアに切り替える。COVID-19患者が急増してケアの提供が難しくなった場合には、患者に対する優先順位付けを行わざるを得ない。