慶應義塾大学の坂元晴香氏らは、COVID-19のパンデミックが自殺率に与えた影響を調べるため、厚生労働省の統計を用いて2016~19年と2020年の月別自殺率を比較して、男性では10月と11月、女性では7月から11月までの自殺率が増加していたと報告した。結果は2021年2月2日のJAMA Network Open誌電子版に掲載された。
COVID-19のパンデミックにより、収入を失った人が増え、知人との接触機会が減少し、精神疾患の悪化により、自殺が増えている可能性が懸念されている。そこで著者らは、厚生労働省が発表した、2011年から2020年の各月の自殺者数に関するデータを利用して、2020年11月までの日本人の自殺率を、それ以前の年の同じ月と比較することにした。
主要評価項目は毎月の自殺率に設定、総人口に占める自殺者の割合を算出した。まず、回帰モデルを用いた差分の差分析で、2020年と2016~19年の、4月から11月までの自殺率の差を推定した。また、2次解析として、2011年から2019年の自殺率の変化に基づく予測値と、2020年の実際の報告数を比較することにした。
2011~20年までの期間に、日本では9万48人が自殺していた。6万1366人(68.1%)が男性で、2万8682人(31.9%)が女性だった。このうち年齢が特定できたのは男性6万1135人(99.6%)と女性2万8635人(98.3%)だった。
男性の自殺者のうち、8536人(14.0%)が30歳未満で、1万8979人(31.0%)は30~49歳、1万9574人(32.0%)は50~69歳、1万4046人(23.0%)は70歳以上だった。女性では、3755人(13.1%)が30歳未満、7395人(25.8%)が30~49歳、8585人(30.0%)は50~69歳、8900人(31.1%)は70歳以上だった。
就労状態に関する情報は、男性5万8094人(94.7%)と女性2万7122人(94.6%)から得られた。男性のうち5103人(8.8%)は自営業者または家族経営の会社で働いており、2万670人(35.6%)は被雇用者、4533人(7.8%)は生徒または学生で、2777人(47.8%)は無職または失業中だった。女性では、697人(2.6%)は自営業者または家族経営の会社で働いており、4806人(17.7%)が非雇用者で、2120人(7.8%)は生徒または学生、4724人(17.4%)は専業主婦で、1万4775人(54.5%)は無職か失業中だった。
自殺率が高かったのは、年齢では30歳以上の男性、就労状態は無職または失業中の男女と、被雇用者の男性だった。
男性全体の差分の差分析では、4月から9月までは2020年と2016~19年の自殺率に有意差はなかった。しかし10月には、人口10万人当たり2.03と1.78で、差分の差は0.40(95%信頼区間0.14-0.67)、11月も人口10万人当たり1.85と1.66で、差分の差は0.34(0.07-0.60)と有意差を示した。
年齢階層別に見ると、2020年の自殺率が2016~19年に比べ有意に減少していた場合もあった。30~49歳の男性では、4月は10万人当たり1.43と2.15で、差分の差は-0.53(-0.94から-0.12)だった。50~69歳男性の5月は、1.66と2.52で、差分の差は-0.62(-1.04から-0.21)だった。
30歳未満の男性では、2020年の7月から11月までの自殺率が、2016~19年に比べて増加していた。30~49歳の男性では、10月と11月に自殺率の増加が見られた。50~69歳の男性では、有意な増加は10月のみだった。70歳以上の男性の自殺率には変化が見られなかった。
女性全体では、2020年の自殺率は2016~19年に比べ、7月から11月まで有意な増加が見られた。人口10万人当たりの自殺率は、7月が0.96と0.82、差分の差は0.24(0.09-0.38)、8月が0.98と0.77、差分の差は0.30(0.16-0.45)、9月は0.97と0.78、差分の差は0.40(0.14-0.67)、10月は1.28と0.75、差分の差は0.62(0.48-0.77)、11月は0.96と0.76、、差分の差は0.29(0.15-0.44)だった。
年齢階層別に見ると、30歳未満の女性では、4月の自殺率は0.32と0.43、差分の差は-0.18(-0.31から-0.04)で、2016~19年よりも減少していたが、8月から11月までは増加していた。30~49歳の女性では、7月から11月まで自殺率の有意な増加が見られた。50~69歳の女性も7月から11月まで増加していた。70歳以上の女性では10月のみに増加が見られた。
就労状態別に見ると、男性では、8月から10月に被雇用者の自殺が増えており、8月、9月、11月には生徒/学生の自殺が増えていた。女性では、被雇用者の自殺は7月、9月、10月、11月に増加しており、8月と9月には生徒/学生の自殺が増え、8月、10月、11月には専業主婦の、7月から10月には無職/失業中の女性の自殺が増えていた。
2次解析として、2011年から2019年の自殺率の変化に基づく2020年の予測値と実際の自殺率との比較を行った。2011年から2019年までの自殺率は、1月から11月までどの月も減少していた。予測値に比べ報告された自殺率は、男女ともに、7月から11月まで、有意に高かった。
男性では、30歳未満の自殺率が予測値よりも顕著に高く、率比は7月が1.34(1.14-1.54)、9月は1.68(1.46-1.89)だった。逆に予測値よりも低かったのが、4月の30~49歳で、率比は0.76(0.66-0.85)だった。女性で予測値よりも実測値が顕著に高かったのは、30歳未満の10月(率比2.14:1.76-2.52)と30~49歳の10月(2.30:2.01-2.58)だった。
これらの結果から著者らは、2020年の日本では、男性の自殺率は10月と11月に、女性の自殺率は7月から11月まで、以前の年よりも増加していたと結論している。この研究は文部科学省の支援を受けている。


