SARS-CoV-2に感染するとどの程度の免疫がつくのか、再感染の可能性があるのかについては、いまだ明瞭になっていない。米国Nevada大学のRichard L Tillett氏らは、米国で再感染したと判定された25歳の男性患者に関する情報をLancet Infectious Disease誌電子版に2020年10月12日に報告した。

 他のコロナウイルス感染症については、獲得された免疫は1~3年で低下することが知られている。SARS-CoV-2については、初回感染時と2回目の感染時に採取したウイルス遺伝子を比較して、再感染だったと判断された症例が、香港、オランダ、ベルギー、エクアドルで報告されていた。著者らは今回、米国で、SARS-CoV-2に2度感染した症例について記述している。

 米国ネバダ州在住の25歳の男性は、2020年4月18日に、Washoe郡保健局が地域で行った検査イベントに参加してPCR検査を受け、陽性と判定されていた。検査時点で男性には、ウイルス感染を示唆する症状(咽喉痛、咳、頭痛、悪心、下痢)が認められた。発症は3月25日だった。臨床的に意義のある併存疾患はなく、免疫不全症でもなかった。隔離期間中に症状は消失し、5月6日と5月26日に受けたPCR検査の結果は陰性だった。

 ところが、5月28日から再び、発熱と頭痛、めまい、咳、悪心、下痢が現れ、患者は5月31日に急病診療所を受診した。胸部X線検査が行われたが、その日はそのまま帰宅を許された。6月5日に患者はプライマリケア施設を受診した。そこで、息切れを呈する低酸素症が見つかった。その場で酸素療法を受けた後に、救急部門を受診するよう指示され、訪れた救急部門で鼻咽頭スワブの採取を受けた。検査結果は陽性でその日から患者は入院した。筋痛、咳、息切れなどの症状があり、酸素療法が継続された。胸部X線検査によって、ウイルス性肺炎または非定型肺炎を発症していることが明らかになった。6月6日に行った抗体検査では、SARS-CoV-2に対するIgG抗体とIgM抗体が検出された。

 4月18日と6月5日に、48日間隔で行われたPCR検査が、どちらもSARS-CoV-2陽性を示したこの患者は、いずれもCOVID-19と矛盾しない臨床症状をもたらしていた。

 次世代シーケンサーにより、鼻咽頭スワブから抽出したSARS-CoV-2 RNAの配列を解読し、2通りの方法を用いて違いを検討した。ゲノム配列を比較したところ、それぞれ感染していたウイルスの遺伝子には有意な差が見られた。4月に感染したウイルスと6月に感染したウイルスは、両方ともクレード20cに分類されたが、6月のウイルスには見られない一塩基変異(SNVs)が4月のウイルスに認められるなど、遺伝子には差が認められた。

 2020年3月5日から6月5日までに、ネバダ州で採取された171標本と中国武漢で報告された標準株の遺伝子塩基配列を比較し、系統進化的解析を行ったところ、この患者の4月と6月の塩基配列の間に、ネバダ州の他の標本が位置することが分かった。この系統進化仮説が正しければ、1年間に83.64カ所の置換が起こると推定され、現在観察されているSARS-CoV-2遺伝子の置換速度23.12カ所/年を大きく超えている。そのためこの患者の場合、症状が回復した後も1回目の感染が持続しており、それが再活性化したと考えるよりも、遺伝的に異なるSARS-CoV-2に再感染したと見なされた。この患者の場合には、2回目の方が臨床的には重症だった。

 これらの結果から著者らは、過去にSARS-CoV-2に感染した人に、再感染を防ぐ免疫が誘導されるとは限らないことが示唆されたため、COVID-19と診断されたことがあるかどうかに関わらず、全ての人が同様に感染予防対策を行う必要があると結論している。