COVID-19は米国の抑うつリスクを3倍増に | ぽちルンルン部屋

    米国Boston大学公衆衛生大学院のCatherine K. Ettman氏らは、COVID-19パンデミックと、感染封じ込め政策に起因する日常生活の制限や、失業などのストレスが、米国人の抑うつ症状に及ぼした影響を検討し、抑うつ症状の有病率がパンデミック前の3倍に上昇していたと報告した。結果はJAMA Network Open誌電子版に2020年9月2日に掲載された。

     これまでにもCOVID-19と精神的な健康状態の悪化についての報告はあったが、多くは中国からの報告であり、医療従事者など一部の集団を対象としていた。そこで著者らは、COVID-19と感染予防策が米国の一般的な成人の抑うつ症状有病率に及ぼした影響を検討するために、米国での流行中と流行前の調査データを比較することにした。

     COVID-19流行期間中の有病率の推定は、2020年3月31日から4月13日まで行われたCOVID-19 and Life Stressors Impact on Mental Health and Well-being(CLIMB)スタディのデータを利用することにした。COVID-19流行前の有病率推定は、2017~2018年に行われた米国国民健康栄養調査(NHANES)に参加した成人のデータを利用した。

     主要評価項目は抑うつ症状の有病率とし、Patient Health Questionnaire-9(PHQ-9)のスコアがカットオフ値を10以上だった人の割合とした。なお、PHQ-9スコアが4以下は抑うつ症状なし、5~9は軽症、10~14は中等症、15~19は中等症から重症、20以上が重症として、それぞれの有病率も比較した。

     CLIMBの参加者は、COVID-19ストレッサースコアも評価した。13項目のストレッサーには、流行中に職を失った、COVID-19で親しい人を亡くした、経済的困難がある、などの項目を含む。このスコアは0~2点を低ストレス群、3~4点を中等度ストレス群、5~13点を高ストレス群に分類した。

     人口動態的データでは、性別、年代(18~39歳、40~59歳、60歳以上)、民族、教育(高校を卒業していない、高卒、カレッジ進学、大卒以上の学歴)、婚姻状態、世帯収入(2万ドル未満、2~4万5000ドル未満、4万5000~7万ドル未満、7万ドル以上)、5000ドル以上の資産の有無、同居家族の人数などを調べた。

     計1470人がCLIMBスタディを完了していた。完了率は64.3%だった。データが不足していた人々を除くと、COVID-19流行中の分析対象は1441人になった。619人(43.0%)が18~39歳で、723人(50.2%)が男性、933人(64.7%)が非ヒスパニック系白人だった。一方、COVID-19流行前のNHANES参加者は5065人だった。18~39歳が1704人(37.8%)で、2588人(51.4%)が女性、1790人(62.9%)が非ヒスパニック系白人だった。両群の特性に偏りはなかったが、CLIMB参加者の方が世帯収入は少なかった。

     PHQ-9のスコアが10以上の抑うつ症状の有病率は、COVID-19流行前が8.5%、流行中が27.8%だった。性別、年代別、民族別のどのサブグループでも、流行中の抑うつ症状有病率は流行前の3倍を超えていた。一方、流行前も流行中も、男性より女性の方が有病率は高かった。流行前は女性が10.1%、男性が6.9%だったのに対して、流行中は女性が33.3%で、男性は21.9%だった。

     一般に、COVID-19流行前も流行中も、保有するリソースが多い人の方が抑うつ症状は少なかった。例えば流行中の有病率は、既婚者が18.3%に対して、離婚や死別を経験した人では31.5%だった。収入が低かったグループは46.9%だったのに対して、高収入グループは16.9%だった。5000ドル以上の資産がある人は19.3%だったのに対して、資産がない人は40.4%だった。ストレッサーテストの低ストレス群が15.5%だったのに対して、高ストレス群は42.9%だった。

     PHQ-9スコア別に見ると、症状なしから重症までどの群でも、COVID-19流行中の方が流行前より有病率は高かった。軽症群では、24.6%(21.8-27.7)と16.2%(15.1-17.4)、中等症群では14.8%(12.6-17.4)と5.7%(4.8-6.9)、中等症から重症群では7.9%(6.3-9.8)と2.1%(1.6-2.8)、重症群では、5.1%(3.8-6.9)と0.7%(0.5-0.9)だった。

     交絡因子になり得る人口動態的データを補正した多変量ロジスティック回帰分析で、COVID-19流行中に抑うつ症状が現れるリスクが高かったのは、離別者や死別者(既婚者を基準にしたオッズ比は2.08:1.29-3.36)、低所得者(高所得者を基準にしたオッズ比は2.37:1.26-4.43)、資産がない人(ある人を基準にしたオッズ比は1.52:1.02-2.26)、COVID-19ストレッサースコアが高い人(低い人を基準にしたオッズ比は3.05:1.95-4.77)だった。

     これらの結果から著者らは、米国の人口比率を代表するコホート研究で、COVID-19流行中の抑うつ症状の有病率は流行前の3倍超になっており、特に大きなストレスにさらされた人や、社会的資源や経済的資源に恵まれない人の負荷が大きかった。そのため、今後はCOVID-19関連の精神疾患患者の増加に対する対応も必要だと結論している。この研究はRockefeller Foundation-Boston University 3-D Commissionの支援を受けている。