米国Zucker School of Medicine at Hofstra/NorthwellのChristoph U. Correll氏らは、急性増悪を起こした統合失調症患者に、既存の薬とは作用機序が異なるルマテペロントシル酸塩を投与するフェーズ3臨床試験を行い、重度の有害事象を伴うことなく、有意な症状軽減が見られたと報告した。結果はJAMA Psychiatry誌電子版に2020年1月8日に掲載された。

 ルマテペロンは統合失調症治療のために開発された新しい薬で、セロトニン、ドパミン、グルタミン酸による神経伝達を同時に調節する作用があり、他の抗精神病薬の有害事象の原因である標的以外の受容体への作用がないため、安全性が高いことが期待されている。そこで著者らは、ルマテペロンの有効性と安全性を評価するフェーズ3試験を計画した。

 対象は、DSM-5に従って統合失調症と診断された18~60歳の患者で、急性増悪を起こした場合。米国の12施設で参加者を募集し、入院患者のスクリーニングを行った。急性増悪の定義は、Brief Psychiatric Rating Scaleでスコアが40を超え、スコア4以上の陽性症状が2つ以上あり、4週間以内に急性発症した場合とした。また、スクリーニング時点でClinical Global Impression-Severity of Illness(CGI-S)スコアが4以上とした。以前に他の抗精神病薬治療に反応したことがあることも条件とした。ベースラインの重症度は、Positive and Negative Syndrome Scale(陽性・陰性症状評価尺度;PANSS)で評価し、合計スコアが70以上とした。

 条件を満たした患者は1対1対1の割合で、ルマテペロン42mg群(トシル酸塩化合物として60mg)、28mg群(同40mg)、プラセボ群にランダムに割り付けた。参加者はカプセルで提供された割り付け薬を1日1回服用し、4週間継続してもらった。

 主要評価項目は、PANSSの合計スコアのベースラインから28日後までの変化の平均値とし、プラセボとルマテペロンを比較した。副次評価項目は、CGI-Sスコア、PANSSスコアの各項目のサブスケール、Personal and Social Performance(PSP)スコア、Calgary Depression Scale for Schizophrenia、治療期間の有害事象とした。

 2014年11月13日から2015年7月20日までに、630人の患者をスクリーニングし、条件を満たした450人を、42mg群、28mg群、プラセボ群に150人ずつ割り付けた。患者の平均年齢は42.4歳で、77.1%が男性だった。ベースラインのPANSSスコアの平均は89.8点、CGI-Sスコアの平均は4.8点だった。4週間の治療を最後まで継続できたのは366人(81.3%)、4週後の評価を完了したのは359人(79.8%)だった。安全性の評価は449人(99.8%)を対象に、有効性の評価は435人(96.7%)を対象にした。統合失調症と診断されてからの期間は中央値で15.0年だった。

 ルマテペロン42mg群とプラセボ群で、PANSS合計スコアの変化量を比較した最小二乗平均差は-4.2点(95%信頼区間-7.8から-0.6点)で、42mg群では有意にスコアを改善していた。28mg群とプラセボ群の比較では、最小二乗平均差は-2.6点(-6.2から1.1点)で差は有意ではなかった。

 42mg群のPAMSSスコアの変化量がプラセボに比べ有意差を示すようになったのは、治療開始から8日目の時点で、その後も有意差は維持された。PANSS合計スコアが30%以上改善した治療反応者の割合は、42mg群36.5%、28mg群36.3%、プラセボ群25.5%だった。

 28日後のCGI-Sスコアの変化は、42mg群とプラセボ群の最小二乗平均差で-0.3点(-0.5から-0.1点)だったが、28mg群では-0.2点(-0.5から0点)で、差は有意ではなかった。PANSSの陽性サブスケールは42mg群と28mg群の両方で、プラセボ群に比べ有意な改善を示した。一方で、陰性サブスケールはいずれも有意差を示さなかった。42mg群では、PANSSの総合精神病理サブスケールのスコアも有意に改善し、PSPスケールなどを用いて評価した心理社会機能のスコアにも有意差が見られた。

 治療期間の有害事象は、42mg群の97人(64.7%)と28mg群の85人(56.7%)、プラセボ群の75人(50.3%)で報告された。割合がプラセボ群の2倍を超えていた有害事象は、眠気(42mg群17.3%、28mg群11.3%、プラセボ群4.0%)、鎮静(同12.7%、9.3%、5.4%)、疲労(同5.3%、4.7%、1.3%)、便秘(同6.7%、4.0%、2.7%)だった。有害事象が重度で治療を中止したのは2人で、1人は起立性低血圧(42mg群)、もう1人はけいれん発作(28mg群)だった。これまでに見つかっていない新たな有害事象は報告されなかった。