前回の症例1に引き続き、慢性疲労症候群によくみられる証と漢方処方について、症例とともに解説します。

 

■症例2

「疲れやすく、頭がふらふらします。疲れているのに寝つきが悪く、途中でよく目が覚めます。そのせいで朝からぐったり疲れています。病院を受診したところ、慢性疲労症候群と診断されました」

 

 動悸がします。頭がぼうっとします。舌は淡白色をしています。

 この患者さんは、「心血虚(しんけっきょ)」証です。人間の意識や判断、思考など高次の精神活動(神志:しんし)をつかさどる五臓の1つである心(しん)が十分に養われず、慢性疲労症候群になったものと思われます。

 この体質の場合は、心血を潤す漢方薬で、慢性疲労症候群を治療します。この患者さんには、帰脾湯(きひとう)を服用してもらいました。服用を始めて3カ月後くらいから、夜間途中で起きることなく朝まで続けて眠れるようになってきました。動悸もあまり気にならなくなりました。7カ月後には、起床後、少しずつですが家事ができる程度にまで元気になってきました。

 

■症例3

「疲労感が強く、思考力が低下して、仕事に支障が出るようになってしまいました。病院では慢性疲労症候群と診断され、現在休職しています」

 

 腰や膝がだるく、歩くのにも疲れを感じます。体に熱感があり、寝汗をかきます。舌は暗紅色で乾燥しており、舌苔はあまり付着していません。

 この患者さんの証は、「腎陰虚(じんいんきょ)」です。五臓の腎の陰液(腎陰)が不足している体質です。腎は、生きるために必要なエネルギーや栄養の基本物質である精(せい)を貯蔵し、人の成長・発育・生殖をつかさどる臓腑です。腎陰虚証となって精が失われたため、慢性疲労症候群になったものと思われます。思考力の低下、腰や膝がだるい、体の熱感、寝汗、暗紅色の乾燥した舌、少ない舌苔などは、この証の特徴です。動作が緩慢、光や音に過敏になる、などの症状がみられることもあります。

 この体質の場合は、漢方薬で腎陰を補い、慢性疲労症候群の治療をします。この患者さんには、六味地黄丸(ろくみじおうがん)を服用してもらいました。4カ月後、体の熱感と寝汗がなくなりました。8カ月後には、長時間外出してもその後寝込むことがなくなりました。近いうちに職場に復帰できる自信が出てきました。

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 今回紹介した症例の他に、動きたがらない、しゃべりたがらない、などの症状が強いようなら、「気血両虚(きけつりょうきょ)」証です。十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)など、不足している気血を補う漢方薬で慢性疲労症候群の治療をします。

 強い疲労感とともに、目が疲れやすい、筋肉の引きつり、筋肉痛、女性の場合は過少月経や稀発月経を伴う場合は、「肝陰虚(かんいんきょ)」証です。杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)など、肝の陰液を補う漢方薬を用いて、慢性疲労症候群の治療を進めます。

 手足がだるい、筋力の低下、食べると眠くなる、などの症状もみられる場合は、「中気下陥(ちゅうきげかん)」証です。補中益気湯(ほちゅうえっきとう)など、気の固摂作用を高める漢方薬を用いて、慢性疲労症候群を治療します。