認知症患者の急増を背景に、その関連マーケットの動向が注目を集めつつあります。国が認知症対策に本腰を入れる一方、認知症予防の分野を中心に商品・サービスの開発に乗り出す一般企業が目立ち始めました。医療・介護現場でも、「予防」「効果的・効率的ケア」の両面からのアプローチが広がりつつあります。

 国の認知症施策には長い歴史があります(表1)。そのターニングポイントの1つとなったのは、2004年に「痴呆」の名称が「認知症」に変更されたこと。これを機に、「国民が認知症を正しく理解し、認知症の人が安心して暮らせる町づくり」が政策の前面に掲げられました。2012年には「認知症施策推進5か年計画」(オレンジプラン)が策定され、認知症サポート医の養成などを推進。2015年の「認知症施策推進総合戦略」(新オレンジプラン)では、認知症初期集中支援チームといった多職種による支援体制の構築も打ち出されました。

表1 これまでの認知症施策の変遷(編集部まとめ)

 そして、厚生労働省を中心に議論されてきたそれまでの枠組みを刷新し、政府が主導して2019年にまとめたのが「認知症施策推進大綱」です。政府の大綱の基本的な考え方は、「共生」と「予防」。認知症の人が周囲や地域の理解と協力の下、住み慣れた地域で尊厳と希望を持って生きる「共生」の実現を最重要施策に挙げました。

 さらに「予防」については、認知症になるのを「遅らせる」「進行を穏やかにする」ことと定義。生活習慣の改善などを進め、結果として「70歳代での発症を10年間で1歳遅らせることを目指す」としました。「共生」と「予防」の考えに基づき、「介護予防に資する通いの場への参加率を8%に高める」といったKPI(重要業績評価指標)や目標値を示したのも特徴です(図1)。

図1 認知症施策推進大綱で示された具体的な施策と主なKPI・目標

 こうした環境下で、医療・介護業界を支援する企業の商品・サービス開発も活発化しています。これまで盛んに行われてきた根本的治療薬の開発がスムーズに進んでおらず、「予防」や「効果的・効率的ケア」の実現に資する商品・サービスの開発に注目する企業が増えています。

 国を挙げて後押しする動きも見られます。開発に関わるKPIや目標が大綱に盛り込まれたほか、2019年4月には経済界や産業界、医療・介護業界、関係省庁など101団体が参加し、日本認知症官民協議会が設立。8月には同協議会の「認知症イノベーションアライアンスワーキンググループ」で、認知症に関するニーズなどを踏まえた潜在的市場規模の把握・分析や重点投資分野の設定などの検討が始まりました。

Next血液を使った認知機能検査や予防とトレーニングなどが登場