2019年12月20日に開催された中央社会保険医療協議会(中医協)総会で、2020年度調剤報酬改定に向けて、オンライン服薬指導について議論が交わされた。

 オンライン服薬指導は、2019年12月4日に改正医薬品医療機器等法(薬機法)が公布され、1年以内に実施が可能となる。具体的には、(1)オンライン診療時の処方箋に基づく服薬指導、(2)在宅訪問時の処方箋に基づく服薬指導──に分けられることが示されており、12月19日から20年1月18日まで、パブリックコメントの募集が行われている(関連記事:「オンライン服薬指導、実施に向けパブコメ募集」)。

 今回の中医協総会で、厚生労働省保険局医療課は、オンライン服薬指導における薬学管理料の要件の方向性(案)を示した。

(出典:中医協総会資料)

(出典:中医協総会資料)

 それによると、オンライン診療時の処方箋に基づく服薬指導では、薬剤服用歴管理指導料の要件を満たすことや、一定期間内に薬歴管理料(対面)を算定していること、同一薬剤師の対応が原則であること、服薬指導計画を策定して実施、オンライン服薬指導の割合が一定以下などの案が挙がった。

 一方、在宅訪問時に発行された処方箋に基づく服薬指導では、対象患者で在宅時医学総合管理料を算定していることも盛り込まれた。また、上記のオンライン診療時の場合の要件と異なる部分として、(1)服薬指導結果の処方医への情報提供、(2)同一月内に在宅患者訪問薬剤管理指導料(対面)を算定、(3)在宅患者訪問薬剤管理指導料と合わせて薬剤師1人に付き週40回まで(在宅オンライン服薬指導が薬剤師1人に付き一定数以下)──が提示された。

 こうした案とともに、厚労省は、オンライン服薬指導で用いるビデオ通話などのシステム利用料や、医薬品を患家に配送する際の費用の負担についての意見も求めた。

日薬が主張した厳しい補足事項

 日本薬剤師会常務理事の有澤賢二氏は、今後、改正薬機法の省令改正、具体的なルールの策定などが行われていく中で、中医協の議論は並行して行われていくため、「慎重な対応が必要」と述べた。

 その上で、「オンライン服薬指導は、対面による服薬指導を補完するための手段として活用するものであり、患者の求めに応じて実施して、その可否は患者の状況などを含めて服薬指導の都度、薬剤師が判断することが不可欠」とした上で、「オンライン服薬指導の要件については(厚労省が示したものは)おおむね妥当である」と賛成の態度を示した。

 さらに、有澤氏は補足として、次の3点を主張した。

(1)対象となる薬剤は、既に対面で処方しているものに限られ、新規処方や処方変更を伴う場合は、認められないことは当然。対面で服薬指導を実施している薬剤であっても、麻薬、温度管理や品質管理が必要なものは、オンライン服薬指導にはなじまない。

(2)在宅患者について、患者のプライバシーの確保などの観点から患家のみに限定し、施設は認めない。

(3)加算は、基本的に対面による服薬指導が必要な場合と想定される。慎重に対応するという意味でも、当面は加算の設定は不要。

 有澤氏は、オンラインに関わる費用については、実費徴収可能な項目として整理するのが妥当であるとした。

 日本医師会常任理事の松本吉郎氏は、議論の前提として、19年12月18日に中医協総会で議論した、国家戦略特別区域における都市部での遠隔服薬指導との関係を確認した(関連記事:「千葉市の遠隔服薬指導、登録受け付け開始」)。

 厚労省医薬・生活衛生局総務課長の鳥井陽一氏は、「国家戦略特区の遠隔服薬指導は、地域を限定して実証を行うという性質のもの。これに対して薬機法に基づく措置は、対面の例外的な措置として全国レベルの適切なルールを定めて、オンラインによる服薬指導を認めるもの。薬機法施行後も、実証かつ地域限定という特区制度は、引き続き存置されるものと整理されている」と答えた。

 松本氏は、12月18日の特区に関する議論は「あくまでも例外的なケースを議論したにすぎないという理解でよいか」と質問。厚労省保険局医療課薬剤管理官の田宮憲一氏はそれを認め、「ただし調剤報酬上の取り扱いは、2020年度改定でオンライン服薬指導に関する調剤報酬が設定されれば、特区でも新たに設定された報酬を適用していくのが基本的な考え方かと思っている。ただし、一部の離島・へき地では、薬機法の要件と異なる場合もあるので、整理は必要かと思う」と述べた。

 こうした回答を受けた松本氏は「(国家戦略特区と違って、今回の話は)一部に限った話ではなく、全国の医療提供体制に大きく影響する話だと思う。特区での実績もまだ非常に乏しい状況にあり、試行的な段階にあるため、一層慎重な対応が必要。オンライン診療と同様に、オンライン服薬指導でも指針が策定されるのであれば、その指針を順守して実施されることが重要」と強調した。

 また、システム利用料など実費の徴収については、「患者に負担してもらう場合であっても、業者から過剰な料金を請求されることのないような配慮が必要だ」と念を押した。

 日医副会長の今村聡氏は、厚労省が定めるというオンライン服薬指導の指針に関して尋ねた。これは、2年前に中医協でオンライン診療の報酬設定を議論した際には、医政局が作成した指針と整合性を取りながら行われたが、今回は厚労省から示されなかったためとみられる。

 鳥井氏は参考資料に触れつつ、「ちょっと作業は押してしまったが、基本的な薬機法上の省令、施行通知(仮称)がある。指針と書いてあるものの、内容は施行通知が指針に相当する。オンライン診療のガイドラインに準拠して作成した」と説明した。

 今村氏は、「それぞれの局によって、多分やり方が違うのでこうなったと理解したが、医政局の(オンライン診療の)指針作成では様々な関係者が集まって多様な議論があり、議事録も公開していた。今回はオンライン診療の指針があるから、それをベースに出されたのだろうが、明確に分かるようにすることと、診療報酬を議論する際にきちんと記載することが重要」と述べた。

 全国健康保険協会(協会けんぽ)理事の吉森俊和氏も「診療側が指摘した、特区との関係、指針との関係についてはその通りだと思う」と発言した。

 さらに吉森氏は、要件の1つにある「同一薬剤師が対応すること」という点を巡り、特区での遠隔服薬指導の議論では、同一の薬剤師が不在の場合は、事前に計画書に書いておけば他の薬剤師が対応してもよいといルールだが、今回も同じなのかを確認。鳥井氏は「医薬局のガイドラインでも整理しているが、指摘の通り」と答えた。

 これを受けて吉森氏は、オンライン服薬指導を実施する薬局の体制について、意見を述べた。「そもそも(担当する薬剤師が)不在の場合にあらかじめ計画書に書いておくのは当たり前のこと。オンライン服薬指導では、同一の薬剤師と患者の信頼関係があることを担保しているのが前提だったと思う。同一の特定薬剤師という前に、かかりつけ薬局がきちんと、服薬指導計画に基づいて薬剤師間で適切な情報を提供することが重要。かかりつけ薬局内での在り方を明確にしておけば、こういう書き方をしなくてもいいのではないか。同一の薬剤師がずっと対応するのは、薬剤師の在り方の現状を考えると難しい。まずはかかりつけ薬局をきちんと定義した上で、オンライン服薬指導への対応をどうするかを議論する必要があるだろう」と述べた。

 一方、実際の運用について、疑問を呈したのは健康保険組合連合会(健保連)理事の幸野庄司氏。「オンライン診療を行った場合、処方箋原本は患者に送られるのか、それとも電子処方箋が患者に送られるのか。実際の流れを説明してほしい」と要望。厚労省は、「紙の場合であれば、原本が医療機関から薬局に送付される。電子処方箋が普及すれば状況は変わるだろうが、現状は紙が通常となっているので、薬局への原本送付を原則と考える」と応じた。

 これを受け、幸野氏は「オンライン診療の後に医療機関から原本を郵送するということであれば、(処方箋が薬局に届くまでに)時間が経過し、それからオンライン服薬指導をやって医薬品を患者宅に送るという流れになる。医療機関がすぐに処方箋を発送するとは限らないことを考えると、オンライン診療から患者が医薬品を受け取るまで、日数を要すると思う」と疑問を呈した。また、電子処方箋を受け取る体制を整えている薬局の数も尋ねた。

 厚労省は、「国家戦略特区では、(医療機関が)原本送付をして、それが薬局に届いた段階で調剤を完了し、その間数日を要するケースが通常。一方で、そうしたケースでは患者の病状は安定しているし、処方も同一の範囲なので、薬がなくなる前、余裕を持った形で実際には対応していくことになるだろう」と答えた。また、電子処方箋のガイドラインは厚労省で示しているが、運用している薬局は把握しておらず、全国的には紙の処方箋が前提であるとした。

 幸野氏は「どれくらい普及するかを懸念している。患者は一定の余裕、薬がなくなる1週間前くらいに、オンライン診療を受けないといけないだろう。使い勝手のいいオンライン服薬指導にしなくてはいけない。時間軸は懸念されるところ。実態を見ていきたい」と指摘した。

 日本経済団体連合会社会保障委員会医療・介護改革部会部会長代理の宮近清文氏は、在宅患者に対するオンライン服薬指導の要件のうち、「在宅患者訪問薬剤管理指導料と合わせて薬剤師1人につき週40回まで(在宅オンライン服薬指導が薬剤師1⼈につき⼀定数以下)」という項目について、「40回という数字の意味は何なのか」と質問。

 これに対して、田宮氏は、「現行の在宅患者訪問薬剤管理指導料の中で既にある規定。今回、その一部をオンラインによる服薬指導にも切り替えるわけだが、その場合も合わせて現行通り40回の規定を適用することが適切ではないかということで提案した」と説明した。

 さらに宮近氏は「オンラインによる服薬指導の割合が一定以下とあるが、どういうイメージを持っているのか」と尋ねた。田宮氏は「中医協の議論になると思うが、オンライン診療料に割合の要件があるので、それが1つの参考になろうかと思う」と述べた。