下痢にさせない! 便秘薬のローテクな選び方 | ぽちルンルン部屋

    全ての診療科の医師が診断し、治療しなければならない慢性便秘症。前々回の「臨床推論に使える乙女便秘とフレイル便秘」では、腹部単純X線検査を活用して、便秘の病態(重症度)を確認した上で治療することの大切さを述べた。前回の「経口薬処方だけで帰すと危険な『鋳型便秘』」では、直腸に硬便が詰まっているときに漫然と経口薬の処方で済ますのではなく、初期対応として摘便浣腸をすべきであることを解説した。

     今回は、初期対応を終えた後の処方の組み立て方と、服薬指導のコツを述べる。

    徐々に強い薬に切り替えていく

     この数年、慢性便秘症を対象にした機序の異なる新薬が相次いで発売された。昔は酸化マグネシウムなどの塩類下剤とピコスルファートなどの刺激性下剤、漢方薬ぐらいしかなかったが、上皮機能変容薬のルビプロストン(商品名アミティーザ)、リナクロチド(リンゼス)、胆汁酸トランスポーター阻害薬のエロビキシバット(グーフィス)、欧米では第一選択で使用されているポリエチレングリコール(モビコール)などが立て続けに登場している(表1)。

    表1 慢性便秘症の機序と主な治療薬、1日当たり薬価(主要な薬剤で添付文書の記載を基に概算)

    ○プロバイオティクス
    酪酸菌配合剤(ビオスリー他)……17~34円

    ○腸内浸透圧の亢進
    酸化マグネシウム……34円
    ポリエチレングリコール(モビコール)……170円
    ラクツロース(モニラック他、小児の便秘が適応)……32~130円

    ○腸管蠕動運動の亢進
    ピコスルファート(ラキソベロン他)……16~23円
    センナ(アローゼン他)、センノシド(プルゼニド)……6~14円

    ○胆汁酸トランスポーターの阻害
    エロビキシバット(グーフィス)……211円

    ○上皮機能の変容
    ルビプロストン(アミティーザ)……244円
    リナクロチド(リンゼス)……88~177円

    ○漢方薬
    潤腸湯……65円
    麻子仁丸……50円

     これらの薬をどう使っていくか。症状や病態に応じた処方パターンに落とし込む「使い分け」を考えている医師も多いとは思うが、筆者は通り一遍ではなく、患者さんに合わせた「テイラーメード」の処方を行っている。便秘薬によって効果が大きく異なるし、同じ薬でも人によって効き方が違うからだ。

     テイラーメード処方のやり方は次の通り。基本的な考えとしては、作用が穏やかな薬から始め、徐々に強い薬に切り替えていく方法をとる(図1)。また、新薬は従来の薬と比べて価格に結構差がある。そのため、治療開始は薬価の安い従来薬で行い、改善がなければ新薬に切り替えるようにしている。多くの場合、最初に選択する薬は酸化マグネシウムとプロバイオティクス。これで約半数の患者はコントロール可能だ。

    図2 便秘の程度別各種薬剤の適応スペクトラム(筆者の考え)
    上の薬から試して、2週間後、症状が改善しなかったら下の薬を追加、もしくは以前の薬を休止して下の薬に切り替えていく。ピコスルファートとポリエチレングリコールは、後述する“リセット薬”の位置付けだが、ポリエチレングリコールは14日の投与期間制限が解除されたため、定期薬としても使い始めている。

     十分な効果が得られなければ適宜、薬を切り替えたり追加したりするが、そこで留意すべきなのは「下痢にさせない」ことだ。患者は一度下痢を起こすと「便秘薬が怖い」と感じ、アドヒアランスが低下する。そのため、ルビプロストンやリナクロチドなど切れ味が強い薬では、まず1日1錠だけ処方し、効果が十分でなければ増量する。 

     特にリナクロチドは、添付文書の用量では1日2錠(0.5mg)とされているが、ほとんどの場合1錠で十分である。患者に合う薬が見つかるまでは2週間ごとに受診させ、便秘がコントロールできる薬の組み合わせが見つかれば4~6週間処方にして、患者の通院の手間を減らす。このとき、患者の症状の訴えだけでなく実際にどんな硬さの便が腸管内にどれだけたまっているか、客観的に見極めて治療効果を判断することが大事。そのために腹部X線検査を活用してほしい(前回前々回のコラムを参照のこと)。

    患者の治療参加で真のテイラーメードに

     テイラーメード処方では、患者への服薬指導も重要になる。患者自身が便の状態を把握し、もし緩ければ、薬を適宜減量できるようにするのだ。また、生活習慣に合った服薬タイミングの調整も柔軟に行っていいことを伝えておく。

     例えば、高校生が昼のお弁当を食べた後、便秘薬を飲むとなると、どうしても周りの目が気になるだろう。そういう場合は、「自宅で朝晩のみ内服してもよい」と伝える。それで平日、多少便秘気味になるのであれば、週末だけ1日3回内服するという人もいる。一方、便秘の治療を続けると便通が改善してくる人がいる。その場合は、2日に1回服用するのでもよい。ゴールは便秘が解消することではなく、患者さんが便秘をコントロールできるようにすることだ。それぞれの維持療法を見つけてもらうことが大事になる。

     便秘という疾患は、便をうまく出せない状態が続いても、わざわざ医療機関を受診するという行動にはつながりにくいもの。適切な治療をしないと硬い便が直腸付近で詰まり、さらに排便が困難になる。そういう人には、“リセット薬”が必要になる。

     具体的にはピコスルファートなどの刺激性下剤を頓用で処方しておき、便が数日間出ていないときに服用してもらう。患者が会社員や学生であれば、便が緩くなり過ぎると困る平日を避けて、週末にリセット薬を飲んでもらうようアドバイスしてもよい。もちろんリセット薬として浣腸を選択してもよいが、これは慣れないと自分で注入できないし、心理的に抵抗がある患者さんが多いため、実際に選ぶケースは少ない。14日の投与期間制限があった(2019年12月に解除)ポリエチレングリコール製剤も、筆者はリセット薬の位置付けで使っていたが、患者によってはこの薬だけで排便管理ができるようになり、定期服薬につながることもある。

    酸化マグネシウムとPPIの併用は注意!

     最後に、処方機会が最も多い酸化マグネシウムの使い方を補足する。多数の便秘患者を診ている筆者でも経験したことがほとんどないが、酸化マグネシウムは高マグネシウム血症を引き起こすリスクがある。そのため、4~6カ月ごとに行う定期採血で、血清マグネシウムを測定しておく必要がある。

     また、酸化マグネシウム(MgO)が体内で作用するためには、酸が必要だ。そのため、H2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)やプロトンポンプ阻害薬(PPI)を服用している患者では効果が減弱してしまう。酸化マグネシウムを服用すると、体内で以下の反応が起きる。

    (1)胃内で胃酸(HCl)と反応
    MgO + 2HCl → MgCl2 + H2O

    (2)腸内で膵液(NaHCO3)と反応
    MgCl2+2NaHCO3 → Mg(HCO3)2 + 2NaCl

     こうしてできたMg(HCO3)2や、さらに分解されてできたMgCO3が腸管内への水分滲出を誘導し、緩下効果をもたらす。制酸作用のある薬を服用するなどして低酸状態になっている患者に投与する際は注意してほしい。

     次回は、服薬指導と一緒に行う便秘を解消するための生活指導に関して、「ある迷信」を検証する。