耳鳴りの重症度の低下やQOLの改善に、耳鳴り順応療法(tinnitus retraining therapy;TRT)と認知行動療法を中心とする専門的ケアが有効であることが、オランダMaastricht大学のRilana FF Cima氏らが行った無作為化試験で明らかになった。論文は、Lancet誌2012年5月26日号に掲載された。
耳鳴りは聴覚に発生する問題の中で最もつらいものの1つで、生活のあらゆる場面に影響を与えるため、患者は大きなストレスを感じる。成人の16~21%が生涯のうちに耳鳴りを経験するという報告があるが、薬物による治癒は難しく、標準化された治療もないことから、耳鳴り治療は長引く傾向にある。
治療法として近年用いられているのは耳鳴り順応療法だ。これは、Jastreboff氏による神経生理学的耳鳴りモデルに基づくもので、耳鳴りに対する順応の誘導を目指す。患者にわずかな雑音を発生する装置(サウンドジェネレーター)を装着させ、構造化カウンセリングを行って、耳鳴りに対する意識集中と警戒をなくし、耳鳴りがあっても気にならない(不快に感じない)状態にするものだが、その有効性を評価した質の高い研究はほとんど行われていない。
著者らが注目したのは、耳鳴りに対する認知行動療法だ。こちらは、心理学的教育、リラクゼーション、曝露訓練、行動活性化などで構成され、マインドフルネス(気づき)療法と組み合わされることも多い。そうした治療は耳鳴りのつらさを軽減し、QOLを改善することができると考えられているが、大規模で質の高い試験を行ってその効果を検証する必要があった。
そこで著者らは新たに、耳鳴り順応療法の要素を取り入れた段階的な認知行動療法的アプローチを含む学際的な専門的ケアプロトコルを開発。無作為化試験を行って、様々な重症度の耳鳴り患者を対象にその有効性を通常のケアと比較した。
オランダAdelante Department of Audiology and Communicationで患者登録を実施した。耳鳴りを主訴とする、治療歴のない18歳以上の患者で、オランダ語を話し、試験への参加を妨げる健康上の問題がない人々を登録。1対1で認知行動療法ベースの専門的ケアまたは通常のケアに割り付けた。
通常のケアはオランダで一般に用いられている治療法で、ステップ1では、聴覚検査の後に、耳鳴り治療のためのマスカー機器(大きめの雑音を発することにより耳鳴りを消す)または聴力を高める補聴器(聴力の低下が大きい場合)を処方し、それらの調整を行いながら耳鳴りの評価を行う。ステップ2ではソーシャルワーカーが患者に接触して、カウンセリングなどを継続的に行うとした。
一方、専門的ケアのステップ1は、聴覚検査の後に、認知行動療法の枠組みの中で耳鳴り順化療法を行い、必要に応じてサウンドジェネレーターまたは補聴器を処方して、それらの調整を行いながら耳鳴りに特化した認知行動療法(教育、カウンセリング、グループセッションなどからなる)を行う。ステップ2ではグループまたは単独で認知行動療法を中心とする治療を専門家が行った。
いずれも比較的軽症の患者にはステップ1のみを、重症の患者には続けてステップ2を実施した。治療は原則として8カ月間継続するとした。患者と評価者は盲検化した。
主要転帰評価指標は、健康関連QOL、耳鳴りの重症度、耳鳴りによる障害レベルとし、ベースラインと、割り付けから3カ月後、8カ月後、12カ月後に評価を実施した。
健康関連QOLの評価には、Health Utilities Index 3(HUI3;17項目からなり、合計スコアは-0.36から1.00の間に分布)、重症度評価には耳鳴り質問票(TQ;52項目をそれぞれ3ポイントで評価)、障害レベルの評価には、耳鳴り障害度質問票(THI;25項目を3ポイントで評価)を用いた。
階層的混合回帰モデルを用いてintention-to-treat分析した。
07年9月から09年12月まで、741人の患者をスクリーニングし、492人(66%)を登録。247人を通常のケアに、245人を専門的なケアに割り付け、11年1月まで追跡した。
ベースラインのHUI3スコアは、通常ケア群が0.641、専門的ケア群が0.629、TQのスコアはそれぞれ48.78と49.32、THIスコアは38.65と39.27だった。通常ケア群の35%と専門的ケア群の30%が脱落したが、その理由は治療の内容とは無関係と考えられた。
通常ケア群に比べ、専門的ケア群の8カ月時と12カ月間の健康関連QOLは有意に良好だった。12カ月時の群間差は0.059(95%信頼区間0.025-0.094、Cohenのエフェクトサイズd=0.24、P=0.0009)。
耳鳴りの重症度は3カ月の時点から専門的ケア群で有意に低く、時間経過とともに両群の差は大きくなった。12カ月時点の群間差は-8.062(-10.829から-5.295、d=0.43、P<0.0001)。
同様に、耳鳴りによる障害レベルも3カ月時から継続的に有意差を示し、両群の差は徐々に大きくなった。12カ月時の差は-7.506(-10.661から-4.352、d=0.45、P<0.0001)。
2次評価指標についても全て専門的ケア群で有意に良好な結果になった。
治療の効果はどの評価時点でも、ベースラインの耳鳴りの重症度とは無関係だった。
治療関連または検査に関連した有害事象は見られなかった。
得られた結果は、認知行動療法ベースの専門的な耳鳴り治療は、様々な重症度の患者に広く適用可能で、QOLを改善し、耳鳴りの重症度を下げ、耳鳴りによる障害を低減することを示した。
原題は「Specialised treatment based on cognitive behaviour therapy versus usual care for tinnitus: a randomised controlled trial」、概要は、Lancet誌のWebサイト
で閲覧できる。