昨日、能登地方で大きな地震が発生した。家屋の倒壊もあり、当面、避難生活を余儀なくされる被災者が少なくない。新潟大呼吸循環外科助手の榛沢和彦氏は、2004年10月の新潟県中越地震の被災者を対象とする調査で、避難生活により下肢静脈血栓症などを来すことを明らかにしている。榛沢氏に被災者をケアする医療者への注意点をまとめてもらった。(編集部)
私は新潟県中越地震被災者を対象に、避難生活がもたらすリスクについて調査してきました。その結果、肺塞栓静脈血栓が50歳前後の中年女性に多く発生することが分かりました。つまり地震そのものでは助かっても、その後に肺塞栓症などで死亡した方がいるのです。したがって震災後の片付けやその他で中高年女性にどうしても負担がかかることもあり、皆が認識して注意することが重要です。
 
 肺塞栓や静脈血栓が発生するのは、活動量と水分摂取量の低下が原因です。家屋が倒壊した人の中には車中泊をする人もいるかと思いますが、その場合はワゴン車が安全です。私の調査では、率でいうと、ワゴン車は避難所の2.5倍安全でした。一方、軽自動車や乗用車は避難所よりも1.5倍危険です。やむを得ず乗用車や軽自動車で車中泊をする場合は、足を伸ばして寝るべきです。

 また車中泊をしていて生死を分けた指標に、夜間にトイレに行ったかどうかがあります。大変でしょうが、乗用車で車中泊する場合はときどき車外に出て歩くべきです。一に運動、二に水分摂取なのです。脱水は喉の乾きが出てからでは遅いことがあります。なるべく水分摂取を定期的に行うことを勧めます。一度できた血栓は40%程度が消えません。その結果、後で下肢腫脹や疼痛が出て、日常生活にも困る方も出てきます。それを避けるには、被災直後の今が大事です。それをどうか被災者に伝えてください。

 中越地震の被災者については継続して調査していますが、昨年の検査結果で、血栓が残存している方は、線溶活性が低下していることが判明してきました。これは生まれつきの可能性もありますが、これまでの調査では5%近くの日本人は線溶活性が低いため、血栓が一度できると溶けにくい可能性があるので注意が必要です。すなわち日本人は欧米の方よりも血栓はできにくいのですが、いったんできた血栓が溶けにくい方が少なくないということです。こうしたことを先日、地元新潟県の小千谷や十日町で説明しました。

 さらに、地震も2日目になると不眠を訴える方が多くなり、睡眠薬を希望される方も増えます。しかし、中越地震では、肺塞栓症で死亡した方のほとんどが睡眠薬を飲んでいたこと、血栓が1年後まで残っている方に睡眠薬を飲まれていた方が多かったのです。これは睡眠薬の服用で熟睡できることで、下肢の筋肉が弛緩し静脈拡張を引き起こすために血液うっ滞を起こすこと、さらに睡眠薬の効果で活動量の低下を招くためだと考えられます。したがって被災者の方にも、睡眠薬の使用で血栓の危険性が増えることを理解していただいた上で服用してもらうこと、この点にも十分に注意していただければと思います。