このところ、ニセ医者カップルの話題が新聞紙上を賑わせています。昨年、ニセ医者が主人公の映画が人気を博しましたが(関連記事:2009.7.10「『ディア・ドクター』―過剰な医師信仰を描いた秀作
」)、実際に無資格の人間が県立病院の常勤医の募集に応じ、間一髪のところで医師免許がないと判明するという事件が起こってしまいました。今回はそんな被害に遭わないための医師の真贋鑑別法についてお話しします。
今回の事件の概要は以下の通りです。舞台は岩手県宮古市の県立宮古病院。テレビのニュース番組でこの病院が循環器科医不足で困っているのを知った大阪の40代の女と30代の男が「一肌脱ぎましょう」と病院にアプローチしたのが2008年の11月です。その後、数回の面接を経て、採用が決まりました。しかし、病院側がいくら履歴書や医師免許証の提示を求めても、あれこれ理由をつけて送ってきません。やっとファクスで送ってきたのが、厚生労働大臣の印のない医師免許証のコピーでした。
そこで「怪しい」と感じた病院は、県医療局を通じて宮古署に相談。容疑者らは医師法違反で逮捕され、今回の立件とあいなりました。この2人は5月10日から赴任予定だったといいますから、まさに水際で被害が防げたわけです。しかし、病院側の被害が全くなかったわけではありません。赴任に備えて院内を改装し、ほかにも備品を購入するなどして約200万円の費用がかかっています。これについても病院側は被害届を提出し、刑事告訴も検討しているそうです。
さて、ニセ医者を見分けるためのノウハウに話を移しましょう。今回は医師免許証に厚生労働大臣の職印が押されていないのが決め手になったようですが、コピーで身分証明書を偽造して有資格者になりすます手口は、昔からこの手の事件の常套手段です。やはり、免許証の原本確認が必須です。
ただ、近年の印刷技術の進化で、非常に見破りにくい偽造紙幣が出回っているくらいですから、原本を確認したといっても、だまされてしまう危険性は、昔よりは高まっているといえるでしょう。
次は、医師免許証のウラ取りです。この女性被疑者は、自分が通院していた大阪の著名病院の医師を自称していました。「ホームページのスタッフ欄に名前がない」という指摘には、「患者に危害を加えられたので掲示を控えてもらっている」と答えていたそうですが、詐欺師たちは何とでも言い逃れしますから、医師の所属を確かめることが大事です。
また、その医師が実在の人物かどうかを調べるには、厚生労働省の「医師等資格確認検索システム」が有効です(関連記事:2007.4.10「厚労省の医師検索システムを使ってみました
」)。もちろん、今回のように勤務先の病院に照会することもできます。個人情報の管理にうるさい時代ですが、そのような名前の医師が実在するかどうかくらいは教えてもらえるはずです。
これが、医籍に載っている医師になりすまされると、身元確認は少々難しいかもしれません。生きている医師ならば、引退していない限り、なりすましにくいでしょうが、既に亡くなっている場合は、チェックが難しいかもしれません。というのは、医師法の規則では、死亡した医師は家族が申告して医籍から外す法制になっていますが、家族が届け出を失念した場合、医籍が死亡という実態を反映できていない可能性があります。もし、そのようなケースでも、興信所に身元調査を依頼するなどすれば、なりすましをチェックできるでしょう。世知辛い話ですが、今の時代、これぐらいの事前調査をしておかないと、ニセ医者に現場に入り込まれかねません。
それにしても、このニセ医者カップル、いい度胸をしているものだと驚きます。循環器科は、心筋梗塞や心肺停止などの超ヘビーな症例が来る領域なのですから。
映画『ディア・ドクター』では、重症の癌患者のケアをきっかけにニセ医者は失踪しますが、もしこのニセ医者カップルが赴任していたらどうなっていたでしょう。今回の事件、実害を受ける患者さんが出なかったことを喜ぶべきでしょうか。それとも“ホンモノ”の応募がない現況を悲しむべきでしょうか。