鎮咳薬では治らない乾性咳嗽が、日に日に激しさを増す。発作性の途切れなく続く咳込みや、吸気性笛声、咳込みによる嘔吐を認め、チアノーゼや無呼吸、顔面紅潮、眼瞼浮腫、結膜充血なども出現する―。百日咳に感染したワクチン未接種児には、こうした特有の症状が認められる。
一方、ワクチンを複数回接種した小児や成人が百日咳に感染した場合は、主な症状は長引く咳であり、特有の咳などが認められることは少ない。そのため、ワクチン接種児や成人では百日咳の診断が付きにくかったが、2000年ごろから成人の長引く咳の一因として百日咳に注目が集まり、感染者の掘り起こしが進んできた。
実際、国内では、百日咳と診断される成人が増えている。百日咳は感染症法における5類感染症・定点把握疾患に分類され、全国3000カ所の小児科定点からの報告対象となっている。この小児科定点からの報告を集めた感染症発生動向調査によれば、百日咳と診断された患者のうち、20歳以上の成人の割合は2000年以降着実に増加。成人の百日咳感染に対する認知が広がったことで、08年には36.7%に達した(図1)。
ただし、これらの報告はあくまで小児科定点からの報告で、成人の流行状況までは正確に把握できない。そこで、国立感染症研究所は08年5月、百日咳発生データベース
を立ち上げ、全国の医師が百日咳を自主的に報告できるようにした。
その結果、感染症発生動向調査では把握しきれていない、成人での百日咳感染の実態が浮かび上がった。08年5月から09年12月までに報告された百日咳の症例数は756症例(報告後に否定された2例を除く)。年齢の中央値は22歳(0歳1カ月~92歳)で、成人の割合は実に3分の2程度に上る(図2)。感染研感染症情報センター主任研究官の安井良則氏は、「今では、百日咳の流行の中心は成人だと考えられるようになっている」と話す。さらに、全体のおよそ2割(150人)は、百日咳のワクチン接種を1回以上受けていることも判明した。
感染症発生動向調査によれば、07年は大学での集団発生などにより、百日咳の報告数が前年の倍近くに増加。さらに08年も報告数が増え、過去10年で最多となった(図3)。09年も、百日咳の流行のピークである5月までは08年を超える勢いで報告数が増加していたが、5月(20週)を境に報告数が減少。結局、08年ほどの流行にはならなかった。
その背景について安井氏は、「新型インフルエンザに臨床医の注目が集まったために、報告数が減少した可能性がある」と指摘する。新型インフルエンザの流行の陰で、百日咳のように09年に報告数が大幅に減少した感染症は少なくない。安井氏は、「もう一度、臨床現場の注意を喚起して、報告を促す必要がある」と警戒する。
図1
図1 小児科定点から報告された百日咳患者の年齢分布(感染症発生動向調査より) 小児科定点からの報告であるにもかわらず、2000年以降、百日咳の全報告に占める20歳以上の割合が増えている。
図2 百日咳発生データベースに報告された患者の年齢分布と予防接種歴 2008年5月~09年12月までの報告患者のうち、3分の2を20歳以上が占める。ワクチン接種歴のある小児の患者も多い。
図3 百日咳の定点当たり報告数の推移(感染症発生動向調査より) 2008年は、過去10年の中うちもっとも百日咳が流行した。09年も当初は08年を超える勢いで報告数が増えていたが、新型インフルエンザの患者が出始めたころから報告が減り始めた。


