「アイデア次第で100億円」を売り物に登場した地域医療再生基金。だが民主党政権になってから減額され、制度はかなり変質してしまった。登場から交付先決定までの経緯と、現場に与えた影響を追った。


 「医療再生の提案を募集・審査し、優れた計画にお金をつける地域医療再生基金は、これまでにはなかった施策だ」「現場で検討しながら、実行に踏み切れないでいた再生案を、資金面で後押ししてくれる」

 複数の都道府県の地域医療担当者は、地域医療再生基金(以下「再生基金」)の仕組みを高く評価する。

 この制度は、麻生前政権が経済対策の一環として打ち出し、2009年度第1次補正予算で3100億円が認められた。医療計画の2次医療圏を単位に、救急医療や医師確保などの課題と解決策を、都道府県が地域の医療関係者と協議して再生計画にまとめ、順位付けして国に提出。それを参考に厚生労働省の有識者協議会が審議し、最大100億円または30億円を交付する─というのが、当初の再生基金の仕組みだった。

 交付金は、13年度まで5年間にわたって使える。施設・設備の整備に投じても運営費に充ててもいい。100億円は全国で10地域以内とされていたが、都道府県ごとの割り当てはなく、「アイデア勝負」でもらえることになっていたため、多くの自治体が獲得に乗り出した。北海道では20地域が計画づくりに動き出し、千葉県は、100億円を目指してワーキンググループを設置した。

「100億円」の中止に落胆
 ところが、提出期限当日である10月16日、鳩山内閣による補正予算の一部執行停止で、750億円が減額されてしまった。それでも2350億円残ったが、減額の中身が問題だった。100億円の交付が中止された上、各都道府県の2地域ずつに配ることになったのだ。交付額も1件25億円に減らされ、「アイデア勝負で100億円」という目玉がなくなった。

 これは、計画づくりに奔走した医療関係者を失望させた。「旭川より東には1台もないPETをぜひ導入したかった」。北見赤十字病院院長の吉田茂夫氏は、悔しさを隠さない。吉田氏がかかわった北網地域の再生計画は、道の審査で1位。100億円獲得の期待が高まっていた。(1)北見日赤をセンターとして、医療機関を光ファイバーで結びカルテを相互に閲覧可能にする(2)未熟児と産婦を同時に搬送できるドクターカーの導入(3)同病院を新築移転し機能を拡充─などが具体的な計画だった。

 吉田氏は、「病院長や市長・町長ら多くの人に会い問題点を把握し、完成度の高い計画を練り上げたつもり」と語る。北見市長の小谷毎彦(つねひこ)氏も「市には施設・設備の改善に回す財源はない。再生基金でハードの充実が図れれば、研修医の確保に役立っただろう。市医師会の協力もあって道で1位になっただけに、100億円の交付中止は残念」と話す。

 減額された結果、北見日赤の施設・設備の充実は、再生計画には盛り込めなくなり、吉田氏は、ほかの資金調達法の検討を迫られている。

 上川北部地域の関係者も肩を落としている。名寄市立総合病院とほかの医療機関を電子カルテで結ぶ、ヘリポートを整備してドクターヘリの中継基地とする、といった再生計画が、道で3位になっていたからだ。医療圏の数が多く医療崩壊が深刻な北海道からは、3カ所は選ばれるという読みが道や地元にあり、3位になったときには祝杯を上げたという。

 だが、その矢先に都道府県ごとに2件という条件がつき、上川北部地域に再生基金が交付される可能性は、事実上ゼロになってしまった。