・マンションのエレベーターホール。小さな自転車に子どもさんを載せたお隣さんにばったり。これはまずいな。3密になる。あ、ひょっとすると宅配便の荷物があるかもしれない。ボックスに行ってみる。

・特に何もなかったが、まあもう、上に上がってるころあいだろうと思いきや、お子さんをエレベーターに乗せるのに手こずったらしい。まだ、お出でであった。そういうお年頃の子ではあるのだ。そこまで読み切って、ささっと私が乗ってしまえばよかったが、もちろん、そんな眼力などない。

・さて、困った。お隣さんは「どうぞ、行きましょう。同じ階ですし」と言ってくださる。もちろん、親切から言ってることは分かるのだが、しかたなく「ご時世ですから、どうぞお先に上がってください」と申し上げた。COVID-19のことと納得してくださったのか、上がっていただいた。

・下ってきて、さて、私の番と乗ろうとすると、別の住人がやってぎてしまった。おやおや。これでは、隣人を先に行かせた意味がない。もちろん、同じように譲ることも考えないではない。しかし、ぢょっとまて。

・住人は私よりは若い女性であり、そういう人に向かって「先に行け」とは、実は言いづらいと思ってしまった。というのは、エレベーターホールには、マンション内外の監視モニターが一覧できるようになっているからだ。「ご時世ですから」と先に行かせてもよいが、わざわざ先に行かせて何をするつもりなのかと不審がられるのがいやなんである。モニターにはエレベーター内部の映像も出る。行き先階を覗き見する、エレベーターを降りてから右に行くか左に行くかを見る・・・そんなアブナイ人だとは思われたくないものだ・・・

・ただ、よく考えれば、同乗しても同じことが分かってしまうわけだから(こちらかより上階まで行くとすれば)、「ご時世ですから」ど譲っても、変な勘繰りをされる心配もないのかもしれない。いやむしろ、感激してくれるかもしれないじゃないか。3密はずしに律儀な人だ、とか思われて。

・結局、しかたなく、先に乗り込む。と、やはり乗り込まれてしまった。はあ。どうしよう。目的階まで息を止めておこうか。いや、いまとなってはもう遅いかもしれない。息を止める前には深呼吸が必要だか、この密室のなかでそんなことはできはしない。ままよ、普通に乗り、大人しくしてるしかあるまい。

・と、住人の手の動きが目に入る。行く先階のボタンを押すのだ。と、金属質の輝きがボタンに触れた。部屋の鍵で押したのだ。

・こういう人なら、他にも気を配っているはずだ。普通に乗ることに腹が決まった。