・1年生向けの教養セミナー。私の持ち時間は10コマある。半分は大学生活・学問への導入の講義に使うつもり。そのなかで、小・中学校の教育現場の観察実習が1年生から始まるので、その導入みたいなこともしてきおきたい。授業の外見を漠然と眺めるだけじゃなく、その背後にある先生方の並々ならぬ努力を見抜いてきなさいと言ってみる。が、昨日まで高校生だった諸君にはなかなか響かないだろう。そこで、漠然と見ているアニメだが、その製作現場は大変なんだぞ、人知れぬ労力がかかっているのだ、という話をしてみる。

・アウトラインは、たとえばこちらのようなことを話すことになる。多少は写真撮影の心得があるから、構図に反映されている意図とか、露出や現像の難しさも分かっているつもりだが、それを話すのは、道具立てなどを考えると面倒になる。そこで、セル画を作るあたりの話に重きを置いてみた。もちろん、現代のアニメは『サザエさん』以外、セル画は電子データとして作るんだけれど、少し古いアニメの、本物のセル画を用意した。

・ヤフーオークションだと、人気作品・人気キャラクターでなければ、想像以上に安い金額で手に入れられた。
(1)セル画+動画(セル画の線描)の3セット(100円!)
(2)連続セル3枚+動画3枚のセット、重ね合わせ用セル画3枚+動画3枚。これらには色指定・装着物メモあり。さらに進行表1枚付き
(3)1画面1セット。すなわち、レイアウト画+背景+セル6枚(重ね合わせ)。これも色指定メモあり。
 セル画だけでよかったけれど、思いのほか、いろいろな道具が揃えられた。しめて700円也。

・「想像だけじゃなく、実物を見て分かることもあるよね」
セルの表面はつるつるなので、裏側から絵具を塗ってる。しかし、動画は表面から書かれているから、どうやってセルに写し取るんだろう。どうやら専用の機械があるらしい。とある学生がトレース台を教えてくれる。ああ、蛍光灯がセットされた作業台だね。あれでいけるんだ。

・「何枚ものセルを使ってるけれど、作画の手間を省くためなんだ」
動かないパーツと動かすパーツに分けてセルに描く。A~Fの6枚のセルに分かれてるけど、CとDの絵だけ動かしたい場合、ABEFは固定する。撮影のとき、EFは撮影台からはずさないけど、ABも一旦はずして再セットすることになる。撮影の面倒はあることになる。

・「昔のアニメは、かすかに動くんだ」
ABのように再セットするものは、セット穴の遊び分だけずれて撮影されがち。昔のアニメはどこかしらそうなっている(いまの『サザエさん』もそうかもしれない)。

・「背景画は使い回せる?」
このセル画セットだと、室内を描いた背景に注目。実は壁に絵が掛かってるんだが、セルを重ねていくと、登場人物のために壁絵が隠れてしまう。ほかの場面のときにも流用されてるのかもしれない(たしかに辺部分は疲れている)。

・「細かい、実に細かい」
どうも、このA1~A3という顔を描いたセルは一連の動きらしい。ほとんど同じ絵に見えるけど、じーっと見ると髪の毛のばらけ具合がわずかにちがうね。空気の動きが感じられるわけだ。こういうのも一枚一枚描くことになる。

・「進行表は段取図」
A3には、B1~B3という唇を描いたセルをとっかえひっかえ重ねるらしい。そのことは、進行表にも現れている。
  A3------------------
  B1--B2--B3--B1--B2--

・講義終了後、アニメ好き男子たちが見に来る。
「髪の毛だけじゃなく、目の表情もかすかに変わってますよ」
「あ、3枚続けてみると、少しずつ表情が和らいでいるような……」。
アニメ好き女子もくる。
「この6枚セットのキャラ、どこかで見た気がします」
「あれ? 絵具がはげてる部分がありますね」
「昨日、くっついてるのを、ばりばりっと剥がした跡なんだ」。

・「とっかえひっかえして撮影してたから、ミスもあるんですね」。
「ミスといえば、『風の谷のナウシカ』のオープニングは、脳内設計ミスだね」。
地上を真上からながめるアングル。中央を右から左へ滑空機メーヴェが飛んで行く。右半分を航行中は影が後ろからついてくる(機体の右にある)。が、中央にきたときには影はメーヴェに追いつき(!)、左半分を航行中には影が先に立つのだ。太陽がとんでもなく地球に近いらしい。ならばとっくに地球は燃え尽きてるんじゃないか……
「これで見る気が失せましたね」と私。結局見たけど。