ジョナサンに惚れた日(後編) | ぽてなまの~と 【ときどきADHD話】

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「なまいき」で「なまけもの」な「ぽてたろう」のノートです。
日常のあれこれや、その日考えたこと、そしてADHDや発達障害についての「あるある」などを書いてこうと思います。

 

ジョナサンに惚れた日(後編)

 

山手線の途中で新宿湘南ラインの電車から降ろされた私たちは、線路を歩いて駒込駅についた。だが、駅から閉め出されて行き場がない。そんなとき目に入ったのが駅ビルに入っているジョナサンの看板だった。

 

とにかく「とりあえずの居場所を作ろう」と、行ってみると、ジョナサンは同じような目的の人でごった返していた。ウェイティングリストに名前を書いて立っていると、スタッフの人が奥から丸イスを持ってきてくれたので、ありがたく座った。

 

実は私、子供の頃から本当にラッキーな人間で、このときも「ご案内前後いたします。お1人のぽて様、相席でよろしければご案内できます」と、あっさり中に案内された。一緒になったのは年配のご夫妻と、30代ぐらいの娘さん。隣の4人席は2人組のサラリーマンと別の2人組のOLで、合コンみたいなテンションになっていた。

 

みんな、高級ホテルからカプセルホテル、漫画喫茶まで、宿泊できる施設を必死で探していたが、どこも満員で望み薄だ。そんなとき、誰かがワンセグでニュースを流した。

 

「震源地は宮城県北部、最大震度7。太平洋沿岸では津波が起き、被害は甚大だが、まだ状況はわからない。千葉のコンビナートでは大規模火災が起きている。福島では原発事故の可能性がある」

 

ファミレス特有の明るいBGMの中、誰も何も言えなかった。もう今夜のホテルどころではない。詳しいことはわからなかったが「ひどいことになった」ということだけは伝わった。自分はここでぬくぬくと過ごしているが、家族の無事も確認できない。

 

そんなとき、店内でアナウンスがあった。

 

「当店は通常午後11時までの営業ですが、本日は終夜営業とさせていただきます。夜間、冷たいお水とコーヒーはご自由にお飲みいただき、順次補充いたしますが、午後10時半でオーダーストップとさせていただきます。離乳食のご用意はありますので、必要な方はお申しつけください」

 

ジョナサンのスタッフは、店長さん以下全員家に帰るのをあきらめ、私たちがここで夜明かしできるようにしてくれたのだ。3月のまだ寒い時期、暖かくて座れる場所があり、温かい飲み物がもらえて、清潔なトイレもある。なんてありがたいことだろう。ジョナサンは離乳食まで準備があって、無料提供してくれるんだ。こんな災害を予見していたとは思えないが「すごい企業だな~」と思った。

 

このとき、まだ入り口の待合スペースには待っている人がいて、新たに入ってくる客もいた。さっき出してくれた丸イスはスタッフの休憩室にあったもののようだ。私もファミレスのフロアのバイト経験があるのだが、何時間も続く立ち仕事はつらい。休憩で座れないのは厳しい。夜中は交代で休憩できるかもしれないのに、イスはそのまま待っている客の列に提供されていた。

 

夜9時ごろになって、駅のロータリーの公衆電話がつながるという情報が入ってきて、みんなで交代で電話をかけにいった。私もやっと母の無事が確認できて、ホッとしてジョナサンで夜を明かす覚悟をした。

 

朝6時ごろ、地下鉄が動き始めたという情報が入ってきた。JRはまだ全線不通だったが、私鉄を使えば家の近くまでは帰れるかもしれない。「でも、開通直後はめちゃくちゃ混んでいるだろうね」と、みんなが二の足を踏んでいると、またアナウンスが入った。

 

「ご希望のお客様には朝食がご用意できます。通常3種類のセットからお選びいただけますが、本日は仕入れの都合で2種類とさせていただきます。ご了承ください」

 

客席から、なんとなく拍手が起こった。

私も大喜びでおいしい朝食をゆっくりと食べて、少し時間をずらして地下鉄に乗り込んだ。

 

家に帰りついたのは12日の昼過ぎ。そのとき初めてテレビで津波の映像を見て腰が抜けた。いや、オーバーではなく、テレビの前で画面を見つめたまま、動けなくなってしまった。

 

泣けて、泣けて、泣けた。

 

当初のショックがおさまってくると、温かく一夜を過ごせた自分の幸運と、周囲の人の優しさが身に沁み。感謝の気持ちが日に日に強くなっていった。

 

数年後、たまたま仕事で目白に行くことがあり、ちょっと足を延ばして駒込のジョナサンに行ってみた。レジで「実は震災のとき、とてもお世話になったのでぜひお礼が言いたくて」というと、わざわざ店長さんを呼んでくれた。あのときの店長さんは別の店舗に移って、今もお元気だという。「お役にたって彼もうれしかったでしょう。伝えておきます」とのことだった。

 

昨日、この記事を書こうとして、いろいろ調べたのだが、どうやら今、あの場所には別のファミレスが入っているらしい。ジョナサンも経営母体が変わって、今は離乳食は扱っていないそうだ。

 

でも、私は忘れない。あの日、本当に困っていた私たちを温かく迎え、日常の営業と寸分違わぬサービスを提供し続けたジョナサンのホスピタリティ。ジョナサンは、私にとって一流の店だ。

 

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