フリーランスが言ってはいけない言葉
私は本当に運の良い女だ。脱サラしてフリーランスのライターになったとたん、ぼちぼち仕事がもらえるようになり、およそ1年で「食えるように」なった。ありがたいことだ。
一応「石の上にも4年」勤めた制作会社をちゃんと円満退職したので、その辞めた会社や下請けの印刷会社、デザイン会社などから「ちょっと書ける人がいると便利」といった細かくて地味(しかも安い)仕事がけっこうもらえた。
◆絶対に言ってはいけない「忙しい」
そうこうしているうちに雑誌業界にも少しずつコネができて、そこそこ記事を書く仕事がもらえるようになった。そんな頃だったと思う。ちょっと怖いけど、私が憧れている雑誌で面白い企画をバンバン担当している大先輩のライターさんに聞かれた。
「どう、忙しい?」
「はい、おかげさまで」
その先輩は笑った。
「ブブー! 不正解!」
曰く、
「フリーランスはね、とりあえず血尿が出るまでは『ヒマです! 何かやりましょうか?』って答えなさい。自分が頼みたい案件に『忙しいんで』とか言って、全力注いでもらえないような人には、誰も仕事なんか頼まないよ?」
おっしゃる通りである。
言われるまで、スケジュールに空きがあるなんて「恥ずかしいこと」だと思っていた。業界的に「売れている人」にしか仕事は回らないものだと思い込んでいた。
そこからはもう「忙しそうだね?」とか言われても「とんでもない。今週はちょっとバタバタですけど、来週なんかガラガラですよ。お仕事くださ~い!」とか平気で言えるようになった。仕事は確実に増えていく。ちなみに血尿を出したことはない。
私はもともと図々しいタイプなので、ちょっと時間が空くと、よく仕事をくれる編集部のフロアでオヤツをむしゃむしゃ食べながら、「ねえ、今月って私ヒマなんだけど~? これって干されてるってこと?」とか大声で言っていた。
こっちがそう出れば「え、ヒマなの? じゃあコレ手伝って」という小仕事がいっぱいある。これは大声で言うのがポイントで、同じフロアの隣や、そのまた隣の編集部から「あの~ヒマならこの企画、一緒にやりませんか?」とか「来週2泊で韓国出張行けますか?」とか声がかかることもある。新規顧客の開拓につながることだってあるということだ。
「仕事ないからヒマです」「手が空いてます」「使ってください」「お仕事ください」って自分からアピールしていかないと、フリーランスの仕事って、なかなか増えていかないものだ。
1つの仕事が終わったタイミングも大切で「またよろしく」とか言っちゃダメ。「来月号は何やればいいですか?(次は何やりましょうか?)」と、「もう次の仕事がもらえること前提」で言ってみる。よほどのヘマをやったか、ウンザリされてでもいない限り「あ~次号ね、次はね~」と邪険にはされない。懐いてくる犬を蹴る人は少ないのだ。「あなたとはまた仕事したい!」と、しっかりアピールする必要がある。
◆名刺にはちゃんと職業を書く
その「ちょい怖」な先輩には、もう1つ大事なことを教えてもらった。名刺の肩書についてだ。
独立当初、私は「駆け出しの分際で"ライター"なんて名乗るのは恥ずかしい」と思って、名前と連絡先だけ印刷した名刺を作って渡していた。そしたら先輩が
「1カ月たって、この人の商売って何だっけ? ……って、思い出してもらえなかったら、その名刺は捨てられて終わりだよ」
おっしゃるとおりである。
で、新たに「フリーランス・ライター」と入れた名刺を作ったら、仕事が増えたのだ。ほぼ倍増した。
その数年後、またその先輩に「もうそろそろエディターの仕事を勉強してもいい頃じゃない?」と言われた。それまで編集の経験はほとんどなかったのだが、名刺に「フリーランス・ライター&エディター」と書いたら、恐ろしいことに、編集の仕事が少しずつ入るようになっていったのだ。こうなったらドロナワだが編集もやるしかない。
いやぁ、言霊ってスゴいな。
フリーランスのライターは多いが、フリーランスのエディターは少ないので、名刺を出したときに「編集もなさるんですか?」と話題にしてもらえるし、覚えてもらいやすいようだ。
相手が欲しいのは、仕事は手堅くできるけど「今たまたまヒマな人」だ。「忙しい」匂いをプンプンさせていたら、あっちもちょっと声はかけにくい。ビジネスチャンスは素通りしていく。
↓名刺はプロのデザイナーに作ってもらうとカッコいいが、文字の小さいものは嫌われる