かつて、息子の父親は私によくこう言っていた。
「女性なのだから身だしなみには常に気をつかいなさい。
毎月美容室へ行き、ネイルもきれいにして、ファッション雑誌も買って
いつも美しくいることを心がけなさい。
そのためなら、たとえうちのご飯が味噌汁と白米だけになったとしても
かまわないのだから。」
息子が生まれて。
私は体力も気力も常にぷつんと切れてしまいそうな状態が毎日続いた。
当然、自分の身なりになどかまっている余裕は全くなくなった。
家に人ひとり増えたことで、お金もさらにかかるようになった。
自分のためにお金を使う、自分を美しく保ち着飾ることもできなくなり、
次第にそのようなことから遠ざかっていった。
美容室へ行く暇が、ネイルサロンへ行く暇があれば、
育児から離れ、とにかくひとりになって眠りたかった。
息子が成長し、赤子だったころよりも多少は時間に余裕もできた。
今、必要にせまられて仕事をしているが、その中から自分のために使うお金もできた。
まだまだ綺麗でいたい、自分に目を向けて生きていきたい、そう思えるようになった。
かつてあのように言っていた息子の父親。
今は私のネイルが美しくなろうが、美容室で髪の毛をカットしようが、
なにも気付くことはない。
また私自身も、関心を持って欲しいと思わなくなった。
子どもが生まれる、家族が増える。
「家族」という形により近づくということは、そういうことなのかもしれない。