「今、‘坊ちゃん’と呼ばれているそうじゃないか。
いやいや、責めているんじゃない。むしろ褒めてやりたいぐらいだ」
一瞬、源之助に皮肉られていると感じた正三は、すぐさま直立不動の態勢をとった。
「申し訳ありません、叔父さん」
「おいおい、褒めてるんだぞ。
いいか、お前を‘坊ちゃん’と呼ぶということはだ、お前を一段上の人間と考える素地があるということだ。
残念ながら、今のお前はまだ半人前だ。
他の者に認められていないだろう。
今回のプロジェクト入りで、少しは認めさせることができたろうが、今日の体たらくでは……。
とに角酒を飲め。
赤坂でも銀座でも、一流の店に行け。
一人じゃないぞ、大勢を連れ歩け。
今は仕方がない、金をどんどん遣え。
軍資金の心配はするな。
お前のお父さんから、たっぷり回ってくる。
そうだな、週一回は行け。
いいな、私の贔屓の店を教えてやる。
格の違いを、見せ付けるんだ。
それから、女も抱け。
女将連中には連絡をしておいてやる。
一流の女を抱け。
場末の女はいかんぞ。
間違っても、あの小娘はいかん、いいな!」
語気鋭く、源之助の厳命が下った。反抗を許さぬ、強い言葉だった。
「でも、叔父さん。小夜子さんと誓い合った仲でして……」
モゴモゴと、呻くような声を出した正三だった。
「なにっ! まさか契りを結んだのか?」
気色ばむ源之助は、葉巻を灰皿に押しつぶした。
「い、いえ…その、接吻を、その…」
「ふん。そんなものは、いい。
まあ、契りを交わしていたとしても、そんなもの!
」と、吐き捨てるように言う源之助だった。
「とに角だ、もう会うことはまかりならん。
どうなんだ? 会ったのか、連絡はとったのか」
「いえ…」