小夜子が来て、そろそろ半年近くになる。
あの折のことは、今でも鮮明に武蔵の脳裏に残っている。
連絡なしの、突然のことだった。
日曜日だとはいえ、珍しく家に居た武蔵だった。
あの折のことは、今でも鮮明に武蔵の脳裏に残っている。
連絡なしの、突然のことだった。
日曜日だとはいえ、珍しく家に居た武蔵だった。
“コン、コン。コン、コン”
遠慮がちな音がする。
遠慮がちな音がする。
自宅に人が来るなど、滅多にない。
数多いる愛人ですら、自宅に呼び寄せることのない武蔵だった。
平日の日中に、お手伝いがやってくるだけだった。
数多いる愛人ですら、自宅に呼び寄せることのない武蔵だった。
平日の日中に、お手伝いがやってくるだけだった。
“コン、コン、コン、コン”
大きく家中に響いた。
読みふけっていた新聞を座敷机に置くと、気だるそうに立ち上がった。
「はいはい、分かったよ。どなたですか?」
“誰だ、一体。約束なんぞ、ないぞ。第一、ここに誰が来るんだ? 五平か?”
どかどかと廊下を、足音も大きく歩くと、ガラス戸の向こうに華奢なシルエットが見えた。
大きく家中に響いた。
読みふけっていた新聞を座敷机に置くと、気だるそうに立ち上がった。
「はいはい、分かったよ。どなたですか?」
“誰だ、一体。約束なんぞ、ないぞ。第一、ここに誰が来るんだ? 五平か?”
どかどかと廊下を、足音も大きく歩くと、ガラス戸の向こうに華奢なシルエットが見えた。
“お手伝いの千勢か?”
「どうしたんだ、千勢!」
怒鳴りながら、錠を外した。
所々剥げ掛かったベージュ色のトランク一つで、小夜子が居た。
初めて見る武蔵の怒りの形相にたじろぐ小夜子が居た。
「どうしたんだ、千勢!」
怒鳴りながら、錠を外した。
所々剥げ掛かったベージュ色のトランク一つで、小夜子が居た。
初めて見る武蔵の怒りの形相にたじろぐ小夜子が居た。
「あ、あのぉ…小夜子です…」
消え入るような声で、体を縮こませて、ペコリと頭を下げた。
消え入るような声で、体を縮こませて、ペコリと頭を下げた。
“間違えちゃったかしら、やっぱりお酒の席でのことだったの?”
不安の気持ちが小夜子の心いっぱいに膨らみ、見る見るうちに大粒の涙が溢れ始めた。
「小夜子か、いゃあ、良く来たねえ。悪かったよ、大きな声なんか出して。
俺が悪かった、悪かった。さっ、入りなさい。
そうか、そうか、良く来たな。うん、うん……」
満面に笑みを湛えて、小夜子を手招きした。
俺が悪かった、悪かった。さっ、入りなさい。
そうか、そうか、良く来たな。うん、うん……」
満面に笑みを湛えて、小夜子を手招きした。
「ひくっ、ひくっ、怖い、社長さん」
「うん、うん、そうだな、俺が悪かったな。うん、うん、ごめんな」
「うん、うん、そうだな、俺が悪かったな。うん、うん、ごめんな」
と小夜子の肩を抱きながら、中に引き入れた。
「そうか、そうか。やっと決心してくれたか。
待ってたんだぞ、小夜子。これからは家族だ。
勉学に専念しろ。
家事のことなんか、お手伝いの千勢に任せておけばいいさ。
小夜子と俺は、今日から家族だからな」
小夜子の肩を軽く叩きながら、何度も‘家族’を強調した。
「で、でも。そこまで甘えるわけには…」
落ち着きを取り戻した小夜子は、座布団から降りた。
「ご迷惑を顧みず、お世話になることにしました。よろしくお願いします」
頭を畳に擦り付けるようにお辞儀をした。
「おい、おい。そんな他人行儀なことは言うな」
小夜子の思いも寄らぬ作法に、戸惑いを覚えた武蔵だった。