愈々上京! という前日になっても、小夜子との連絡が取れなかった。
既に小夜子が上京してから、二ヶ月近くが経ってしまった。
兄の落ち込みように接する幸恵は、意を決して告げた。
「正三兄さん、今まで黙っててごめんなさい。
実はね、小夜子さんからお手紙が何通か届いているの。
お父さんとお母さんがね、隠し持ってるの。
いえ、破り捨ててしまわれてるの。でもね、住所、私覚えてるわ」
「そうか! 小夜子さん、手紙をくれてたのか。
だけど、返事を出していないんじゃ、怒ってるだろうな。
もう、今更、逢ってくれないかもな……」
暗澹たる気持ちになった。
「大丈夫よ! 正三兄さん。キチンと訳を話せば、分かってくださるわよ」
そんな幸恵の言葉にも、正三の心は晴れなかった。
両親が反対していると聞いた小夜子の反応が、正三は恐かった。
“障害が多ければ多いほど、燃え上がるさ”
“両親を説得できないなんて、最低! と言われるかも”
相反する思いが、正三の頭を駆け巡った。
「とに角、向こうに着いたらすぐに手紙を書くよ」
直接出かけようとは思わぬ、そんな気の弱さが幸恵には焦れったい。
それが正三の限界だと分かってはいるのだが、“お兄さんと、小夜子さん。だめかも”と、
そんな思いが、幸恵に過ぎった。