「そうなのって、澄江。太ったからと追い出されたのか」
「いや、そうじゃなくて…」
口ごもった澄江は、中々次の言葉を発しなかった。
「はっきり言うてみぃ。どうした?」
茂作の頭の中に、二文字が渦巻いた。
女が男についていったのだ、当たり前のことなのだ。
しかしどうしても、口にすることができなかった。
「実は…赤ちゃんができたの。慶次郎さんの赤ちゃんが」
「なに! それじゃ、なにか。
澄江が身ごもったから、働けなくなったから、それだから追い出されたと言うのか!」
つい大声を出してしまった、澄江を詰るような大声を。
澄江は体を小さくし、俯いた。
「なんてひどいことを……うぅぅ…」
吐き捨てるように言うと、カッと目を見開いて澄江に問い質した。
「いま、どこで興行してる。直談判してくる。
澄江は、ここで待ってなさい。この家から一歩も出るんじゃない」
「ごめんね、ごめんね。お父さん、ごめんね。心配ばかりかけて、悪い子だね、澄江は」
ボロボロと大粒の涙をこぼす澄江を見て、強く言い過ぎたかと気になった。
“いかん、いかん。また澄江が家出してしまう。
澄江は悪くないんじゃ。悪いのは男のほうじゃ”
「もう休め、わしも休む。澄江が悪いんじゃない。澄江は悪くないぞ。さあ、寝よう」
「一緒の部屋でいい? 小っちゃい時みたいに、お布団並べていい?」
「もちろんだとも。そうしょう、そうしょうな」