半年の時を経たある夜、戸口をトントンと叩く者が居た。
うつらうつらとしていた茂作が気付いたのは、幾度かの後だった。
立ち上がるのも億劫だと、座ったまま「誰じゃ?」と、声を張り上げた。
「わたしです…」
女の声が、した。声が小さく、何と言ったのか、茂作には聞き取れなかった。
「誰じゃ?」
もう一度問いかけた。今度は少し大きく、そして力強い声が聞こえた。
「澄江です」
“はて面妖な。すみえ、とは。すみえと言えば、わしの娘も澄江という名じゃが……”
瞬時、頭が真っ白になった。
脱兎の如くに戸口まで駆け寄ると、閂を抜くのももどかしく、「 澄江? 澄江か? 澄江、なのか?」と、声をかけ続けた。
「お父さん、お父さん、ごめんなさい……」
涙で顔をくしゃくしゃにした澄江が、そこに居た。
「おゝう、澄江じゃ。澄江じゃ。入れ、入れ。よお、戻った。よう戻ってくれた。さあ、さあ」
澄江の肩を抱きかかえて、中に入れた。
「元気してたか?」
「うん……」
「そうか、そうか。心配したぞ、心配した。さあ、さあ。腹は空いてないか? ご飯、炊けてるぞ」
「ぺっこ、ぺこ。朝から、食べてないの」
「よしよし。すぐに用意しょうな」
囲炉裏端に澄江を座らせて、いそいそと土間に下りた。
「元気してたか?」
「さっき、聞いたじゃないの。変なお父さん」