寝苦しい夜が明けた朝、母が、俺の記憶から消え去っていた。
そしてその日から、母に対して怨嗟の念を抱いた。
「親としての責務を果たせよ!」
「ごめんね、ごめんね。」
時折かかってくる詫びの電話。
嗚咽と共に繰り返される、詫びの言葉。
しかし日が経つにつれて、単なる雑音となった。
何の感慨も湧かず、何の感情も入ってこなくなった。
そしてそれは、決して自暴自棄の心では、ない筈だ。
と、思った。
━━━━━━・━━━━━━
(六)
死刑囚は独り冷たいベッドに横たわり、仲間から取り上げた煙草をくゆらせた。
少しずつ窓から夜の帳が、闇が入り込んできた。
気持ちの高ぶりが少しずつ収まる。
闇の広がりとともに僧侶がしきりに唱える、安心の世界に入り込んでいく、と考える死刑囚。
しかしそんな死刑囚の心の営みは、結局のところ徒労に終わる。
死という現実の壁は、容赦なく死刑囚を追い込んでいく。
しかし又、どうして俺はあの二人を殺したんだ? 実際は、俺にも分からない。