(八)
そこには少年の思い巡らせた世界はない。
色とりどりの光を発するミラーボール、壁と言わず床そして天井に容赦なく叩きつける強烈な光。
それが、もうもうと立ち込めるタバコの煙に取って代わられている。
その煙に色があり、赤、青、そして白とさまざまな色だった。
しかし濁った色でしかなかった。
そして光ではなく、色でしかない。
少年の心には投影するもののない、色だった。
暫くの間、己の夢想とのあまりの落差に立ち竦んでしまった。
戸惑いの中でも、容赦なく現実が襲いくる。
「お客さん。ここでチケットをお求めください。
一杯の飲料代も含まれています。
追加の場合は、黒服にその旨お伝えください」
「えぇっと、それじゃ…コーラを一つ……」
「ご注文はお席に着かれてからお願いします」
常連客を装うとした少年。
顔を真っ赤にして、チケットを手にして、キョロキョロと見回す。
“カウンターだ、カウンターの隅っこに行け!”
と思ってはみても、少年の足が動かない。
案内係の合図があったのか、黒服が少年の前に現れた。
「お客さん、こちらにどうぞ。
お連れ様はいらっしゃいますか?」
「い、いえ。今夜は一人です。この間は……」
友人に連れられて来たのだと言いかけて、言葉が詰まってしまった。
初見の客だと見抜かれていることを、さすがに認めざるをえない少年だ。
第一、二度目三度目がどうだというのか。
つい苦笑いをしてしまう。
「申し訳ありませんが、お一人様ですとカウンター席をお願いしていますが」
「良いです、そこで。
端が空いていれば、端っこで良いです」