今回は統合失調症という病名の悩みについて.

日本では2002年に,病名が「統合失調症」に変更されました.

一般的な次元では,だいぶ差別や偏見は薄まったかと思います.

 

でも,当事者からしてみると,よくわからない状態に置かれていると思うのです.

他の病気,特に治療法の確立されている病気は,原因がよくわかっているので,

あの時のあの生活習慣をやめ,これからはここに気をつけていけばいい

と理解しやすいと思います.

 

しかし,統合失調症は,研究が数十年進んでいるとはいえ,

現在でも原因がまだはっきりとはしていません.

しかも,症状が自分で認識しにくいです.

 

なにしろ,患者の全員がそうではないけど,

自分が失われてしまったような感覚や,

思考が自分のものではない感じがありますから,

何を見聞きしても,自分自身で理解するのが困難なことがあります.

 

自分が統合失調症の症状を持っていると自分で分かるようになる(病識)と,

統合失調症の半分は回復しているとも言われます.

 

周りの人も,どうなっているのか分からなくて心配だと思います.

どうしてよいかも分からないと思います.

統合失調症を経験したこともない人がほとんどでしょうし.

 

ということで,統合失調症は,自分も周囲もよく分からないまま,

薬やデイケアや職業訓練等を通じて治療がなされていきます.

 

そのよく分からない病気を,自分や周囲はどのように捉えたらよいのか.

私はそれをだいぶ長らく考えてきたような気がします.

 

就労移行支援や就労継続支援を利用したとき,

私と同じ統合失調症を持つ方々と話ができました.

10名くらいは話せました.

 

「私と同じ」と書いてしまいましたが,

同じ人はいなくて,むしろ個性や能力を持つ優秀で賢い人ばかりで,

難関の学校を出ている人も何人もいたし,

学生時代の業績がある人もいました.

皆,優しい人でしたね.

 

だから,私と同じ人がいる,と思って安心することはいいと思いますが,

私と同じと言ってしまうのもなんだか失礼にも思いました.

同じ病名がついているとはいえ,尊敬できる人たちでしたから.

自分と同列にしてはいけないなと.

 

私は発達障害もあるそうで,その診断の根拠として

10年前に知能検査を受けました.

12項目くらい検査を受け,それぞれ20点満点のスコアが出て,

そのスコアの最大値と最小値の差が14点以上あると

能力の凸凹によって生きづらくなっている,

つまり発達障害の状態にあるだろうとみるそうです.

ちなみに私は差が18点ありました.

 

すぐに分かるのは,12項目もあるので,

発達障害といっても色々な知能のアンバランスがあるということです.

ひとくくりにできないのです.

発達障害の中でも,同じ人は1人もいないと考えるのが自然です.

 

「ダンバー数」といって,1人が深く知り合える人数はせいぜい150人だそうです.

人の頭蓋に収まる程度の脳では,知り合いだと認知できる人数に上限があるんですね.

故に,時々人間関係を整理しなくてはならなくなったり,

嫌いだからとか色々理由をつけて関係をフェードアウトしなくてはならなくなる.

 

12項目で差がある2項目があるとき,

単純に掛け算で考えれば,12×11=132種類の差の組み合わせがある.

ここでは100種類としましょう.

そして,それぞれ差の大きさ,程度もある.

14度以上なので,6度の差のバリエーションがあるとしても,

600種類の発達障害のアンバランスがあることになる.

 

150人しか知り合えないのなら,

知り合い150人の皆が発達障害だとしても,

同じ人っていないと認知すると思うんです.人ならば誰でも.

 

統合失調症にも同じことが言えると思います.

パターンが数百通りあったとして,それぞれグループ化できるとしても,

それを1人が同じ人だと認知することってできない,

つまり,同じ人っていないと誰もがそう思うのが自然なのです.

万一すごく似てると思う2人がいても,

確率的にかなりの偶然が入っていると思います.

 

ということで,病名がついても,

その病気ってなんなんだろう,どんな病気なんだろう,と考えても,

誰もどんな病気か知っている人はまだいない,ということと,

同じ病名がついている人同士は,やはり同じと考えるべきなんだろうか

と悩む意味ってあまりない.

 

というお話でした.

この話で,脳と個性についての解像度が

少しだけ,上がれば嬉しいです.