例えば
夏休みの時期
そこは子供達のパラダイスでもあるプール。
公共のプールよりも大きく、設備も整って、さしずめ遊園地のよう。けれど、本物の遊園地のそれとは異なり、あくまでここにあるのはプールと関連施設。
大都市からもほど近くとても人気があり、親子ずれて連日賑わっていた。
そのプールの施設は隣接する国道からもよく見えて、中で遊ぶ人の姿が垣間見える。
木綿子は今年32になる、八月の日曜日、5歳の息子にせがまれて、パートの合間を縫って、ここに来た。普段は近所のスーパーで週3日ほど働く。
扶養家族の枠、108万円の壁を超えない働き方でだ。彼女はこのプールの景色になんとなく同化していた。大手のチェーンで売っているカジュアルウエアの中から、敢えて主張のない無難なデザインの無難か色を選んだ。彼女は、そのブランドの服がとても好きではなかったけれど、消去法で選んだ。他のブランドの消去理由は、値段だ。彼女の狙いは、敢えてシンプルすぎるアイテムを選び組み合わせることで、彼女全体から受ける印象から、そのブランドのイメージ消し去ることだった。事実、その企みは成功していて、彼女のシンプルな服は、そのブランドのイメージないものだった。
今、彼女はプールサイドの庇のある場所のデッキチェアで、彼女の今日のパートナーである5歳の息子と並んで座っていた。
水から上がったばかりの息子は、タオルを巻いて、ソフトクリームを笑顔で食べている。
彼女はその姿を眺めながている。
白いコットンの半袖でシャツを羽織り
インナーはタンクトップ、やはり白だ
ボトムスは一見すると麻素材に見える
薄いチノクロスの丈の短いパンツにスニーカーを合わせていた。
パートナーの顔色で水に入ることも想定して、水着を着けてはいるけれど、今のところ出番はなさそうだった。息子はプールの中よりプールサイドアイスクリームに夢中になっている。
子供だらけのプールは、思えば日本独特の光景だと彼女はふと思った。
海外に行けば、パブリックのプールは年齢別人口比率通りに人がいるし、リゾートホテルのプールはもちろん、日本とは違い大人が過ごしているし・・
当たり前の日本が、実は不思議なことなんだと
息子越しに見る景色に彼女は想いを巡らせた。
でも今は、彼女はここで息子とともに居る。
ぼんやりと窓からの景色を見ていた
百合子は、今年32になった。
今朝、恋人のクルーザーで沖に出て、ランチタイム前にマリーナまで戻った。
洋上は波もなく快適にボートは走った。
釣りをするわけでもなく、目的はなかったけれど、都心にほど近い場所からでも、船で沖に出れば、日頃とは違う世界に行ける・・
恋人に誘われて海にで始めた頃、彼女は、その非日常をとても喜んだ。
非日常も重なれば日常になることを今、彼女は知っていた。
どんなに素敵な料理も、酒も、服も
欲しいものは手に入る、恋人が何でも与えてくれた。ひとつだけ手に入らないものは、恋人の妻になることだけか・・
けれど、今の百合子には恋人との結婚を望み続ける自分さえ、他人事に見えた。
百合子と恋人は、マリーなから都心へと走る国道を進む。ドライバーズシートの恋人が、食事はどうするかと尋ねる。
百合子は、すぐには答えずに、外を見ていた。
単純な景色の中に、きらめく水面がキラキラ飛び込んで来た、そこは子供達で賑わうプールだった。「ねえ、右手のプールが見えるかしら」
由美子は恋人に言った。
「子供に人気のプール?」
恋人が言う
「少しだけ、あのプールに行くが見たいわ」
そう言う百合子に
恋人は何も言わずに
車をセンターに寄せると、右折レーンに入り、そこでユーターンさせた。
やがて通り過ぎたプールの手前で左折して、プールの横、行動に面していない側に車を停めた。
「ありがとう」百合子は礼を言うと、車を降りて、フェンス越しのプールを眺めた。
はしゃぐ子供たちの立てる水しぶきが、ここまで飛んで来そうだった。
楽しそうな子供達と、彼らにつきそう大人たちの姿を見て眺めた。
しばらくそのまま、百合子はプールを眺めていた。
やがて車に戻ると百合子は恋人に言った。
「あのホテルのランチタイムなら間に合うかしら」
百合子は2人で行きつけのホテルの名を告げた。
恋人はうなづき、車を発進させた。
満足そうな恋人の横顔を眺めながら
百合子は、今から深夜までに
自分に起こることが
当たり前の、贅沢な日常なんだと考えた
それは、光り輝くような贅沢の
内側の影のようだった。
木綿子は、フェンス越しにプールを見ていた
ヨーロッパ製のセダンから降りて来た
美しい女性が気になった
なぜこんなプールをいたのかと
中に子供がいる母親には見えなかった
百合子は、フェンスにほど近いところで
水着にならず、男の子と並んで座った
美しい母親の姿を思い出していた
自分と変わりのない年代だったと
綺麗さを出さないで生きるって?
ふと、考えた