ビストロの中は、入口を入ると、ウエィティングスペースとクロークがあり、そこを抜けると広い空間になっている。


右側にはバーカウンターがあるが、椅子はなくウエイター達がそこから飲み物を運ぶ形だ。


カウンターの前には、シルバーウェアの入ったワゴンや、クラー等が置かれている。


巧みに考えられた導線をたどり、奥のテーブルに案内され、そこには彼女がいた。




係りに促されて席に着く。


「待たせただろうか」


「そう10分ほど」




「シェリー1杯分の時間だ」


「シェリー1杯分ね、私はすでに、ここに来る前に2杯いただいたのよ」


「僕も2杯だ」




「君は完ぺきな2杯分の時間を凄し、そして完ぺきな形で店を出た。」




「そう思ってくれたのかしら」


「そう思った 完ぺきだった 恋をしてしまいそうなくらい・・・」




食事をする前に、お互いに他人の振りをしてシェリーを飲もうと提案したのは彼女の方だった。


それに何の意味があるのか、彼は訪ねなかった。


なぜなら、それはある種の面白い提案だと彼は思ったからだ。




「じゃ、この私の提案を貴方も楽しんでくれたのね」


「楽しめた、そう 十分に楽しめた」




「うれしい、解ってもらえて」


「良くわかった」




「何が解ったのかしら」


「とても、大切な事が解った」




「言ってみせて・・・」


「先ずは注文をしよう」




そう言うと彼は、メニューの中から今夜注文しようとするものを彼女に数点を提案した。


彼女はその提案を気にった。


そして、逆にそれに合う飲み物を提案した。


「マコン ビラージュ」


彼は頷くと、ウエイターを呼んだ。




二人は1本マコンをそれに似合う食事とともに時間をかけて楽しんだ。


中でも、鴨のコンフィを使った料理はとても良い出来だった。


白ワインに合う鴨料理が食べられるのは、この店が酒を楽しむことを前提にメニューを作るからだ。


コンフィされた鴨肉は、様々な野菜とともに一つの料理になり、塩味のとても軽い料理になっていた。




ワインが空いて、二人はシェリーを飲み始めた


シェリーが蒸留酒で食前酒と言うのは、日本人によくある誤解だ。


フィノではなく、アモンティリャードを頼んだ。




「ねえ 先ほどの答えが未だなのだけれど」


少し酔った感じで彼女が言った。




「君の提案したバールの事だね」


「そう、貴方がシェリー2杯で思った事は無いかと言うことよ。」




「お答えしよう」


彼女は彼の瞳の奥を見ながら答えを聞こうとしている




「僕がシェリー2杯で気づいた事は、君がもし他人であの店で初めて見た女性だったとして、君はどうなのだろうかと、僕は思いながら君を見ていた。」




「それで、何に気付いたのかしら。」




「あの店でシェリー2杯で君は店を出てここに来た」


「それで」


「君がもし3杯目を注文したら、僕はとても残念だった。」


「どうして」


「あのシチュエーションデ3杯飲んでしまう女性を僕は好きではない」


「私は2杯だったのね」


「2杯だ とてもいい」


「そして本題は」


「シェリー2杯で、席を立つ飛び切りの美人には、多分いい男の連れが、彼女のその後の時間をエスコートするのだろうと言うこと」




「それだけ」


彼女はすねた様、それでいてとても楽しそうな顔で彼を見た。




「それだけの訳がない、僕はその女性と寝たいと思った」




「合格 彼女はそう言って頷いた」



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