エアバスはゆっくりと高度を落としていった。

何処か都会の上空から高速道路の上を飛び越して、飛行機はさらに降下する。

街の景色が、のどかな牧草地かと勘違いする景色に変わる。

ヨーロッパ各地の空港に降りると感じる独特の光景。

おそらくはアクシデントに備えるためか、空港の周囲一定の範囲は必要最小限の建物以外は建てさせず、そこを緑地化しているのだろう。

コックピットでは、コウパイが「アプローチ イン ミニマム」とコールし、それを受けて機長が「ランディング」とコールした頃だろう。

機はスラスターのパワーを少しだけ上げて、ランディングの間合いを調整する。

窓の外に、緑のエリアから滑走路の塗装面とペイント見える。

パワーが外されて機内は一瞬の静寂に包まれる。


次の瞬間、メインギアが設置したショックとともに、スタストリバースが一気に掛けられる。

前のめりの原則の後、エンジンはアイドリングに戻り、フラップアップのための機械音が響く。

やがて機内のアナウンスとともに、機はフランクフルト マイン空港のスロットへとタキシングしていく。


先ほど飛び立った、フミチーノとは雰囲気の違うターミナルに出てきた。

心なしか、黄色に黒で描かれた案内表示が目立つ気がする。

この国の自動車メーカーの広告看板、スポーツ用品のメーカーのもの、そして家電の王手。

そんな広告看板と、必要な案内表示を交互に見ながら、彼は日本への便が出るターミナルを目指した。

ターミナル間の移動は無料のシャトルがあるが、日本への便が出る新しいターミナルへは地下通路でもアクセスが出来た。


かれは、小さな手荷物とともに地下通路を歩いた。

通路を抜けると、真新しいそのターミナルは別世界だった。

近未来風のガラスと金属とが巧みに取り入れられた造りは、この時代の世界の流れと言うものだと感じる。広告看板も少なく、案内表示も液晶の画面がその役割を代わっていた。

飛行機の、グラスコックピット化に準ずる、グラスインターフェイスのターミナルだ。


東京への便が出るのは、2時間後だ一度ゲートまで行ってからコーヒーでも飲もうと、彼は長く細い通路を進んだ。両側はガラスで曇り空の景色が見えた。

通路の先は、日本の空港のそれの様に広がらず、各通路の先端にある搭乗ゲートは4つだけだ。

それでも、その4つに対してカフェが付いている。

これから拡張されるのかもしれないと思った。


ゲートには既に、日本行の747-400と差向えのゲートには名古行きの同じ機材とが向かい合っていた。


出発時刻はほぼ、同時刻だ書かれている。


彼は、侑子の乗るフライトだ。

偶然にもゲートが向かい合わせ、僕らは4度目の偶然でここで出会うのだろう。

ターミナルのコーヒーショップには戻らず、ゲート脇のカフェでコーヒーを注文した。

イタリのそれよりも、アメリカのそれであるコーヒーを彼は飲んだ。

出発まで、1時間に迫った。

侑子は現れなかった。

名古屋へのフライトは、日に1便だ、これに乗る事は間違いがない。

彼よりも、早くローマを発った事は間違いない。

けれど、彼女のフライトはミュンヘンに一度だけ経由するフライトだ。

それにしても遅すぎると彼は思い、ルフトのカウンターに聞いた。


美しい女性係員は手元の端末を操作することもせずに話し出した。

それが、今この場所での最もプライオリティーの高い情報に他ならないことが、その行動で分かった。

係員の話では、該当のフライトはローマを定刻に離陸し、ミュンヘンへの到着は予定より10分遅れ。

その後、再度出発するところで、機材点検のため出発が遅れたとのこと。

さらに、離陸したのは定刻から1時間以上経った後のため、名古屋便へ乗り継げるのかは現在のところ何とも言えないとの事だった。

彼は、その便に友人が乗っていることと、説明してくれた事に礼を言い、カウンターを離れた。


出発時刻の30分前になっても彼女は現れなかった。

やがて、東京便への搭乗が開始された。

ハンディキャップを持つ人、ファーストクラス ビジネスクラスの順で搭乗が進んだ。

彼女は現れない。

さらに、ファイナルコールが流れた

そして、ゲートの係りが、彼を呼んだ時

通路を急ぎ足で移動するグループが目に入った。

日本人の団体を、空港係り員が誘導して来たのだろう。

列は、彼の前で二手に分かれ、東京便と名古屋便に再び塊りゲートに入って行った。

遅れたフライトには、名古屋の乗客も居れば、東京の乗客もいる。

彼は少し救われた気持ちになった。

そのグループの中に彼女を見つけたのはその時だった。


額に汗を浮かばせた彼女は白いドレスシャツとにシンプルなスカートだった。

彼は彼女に「遅かったね」とだけ言い。

「こうなると、ビジネスもファーストも団体も無いわね・・・」

と笑った。

「でも 会えた 4ど目の偶然」

「嬉しいわ」


彼らは乗客が総て乗ったクローズ寸前のゲートで口づけを交わした。

口づけの後、彼は右に 彼女は左に それぞれのゲートに入っていった。

それぞれの、ゲートの係り員は、笑顔で彼らのボーディングパスの半券を彼らに渡し。

「良い旅を」

と告げた。




シベリア上空 フライトレベル スリー ナイナー

2機のルフトハンザのー400は荒涼たる永久凍土の上空を日本に向けて飛行していた。


彼は、機内にありながら、同じ空を今この時間、彼と同じく日本を目指している彼女を事を考えた。


東京へは良く日の昼過ぎに着く


その足で、新幹線に乗ろうと彼は考えていた。


フランク発  東京経由 名古屋行き 今度は彼が経由である。



                                                     











【あとがき】


この後、二人は愛し合った 真剣に

彼は、あろうことかローマでの夜の彼女との約束を、冗談半分もいいところの約束を 守った。


けれど、彼はその約束を果たした事で、彼女を愛せなくなった。


二人は、いがみ合い 罵り合い やがて 他人になった。


彼は、あの夜の事を何も後悔していない


その後の出来事もすべて


彼女と、愛し合えなかった事も


それさえも、彼は何ら後悔していない。