開け放した窓からは、まるで写真パネルを埋めたかの様な空が見える。
窓の左半分の上から4分の1の所にはっきりとした雲が浮かんでいるのが見えた。
彼は今、その景色をベッドの中で見ていた。
腰からの下がブランケットの下に隠れている、裸の上半身は良く日焼けをしていた。
日本人としては極普通の体つき、40代も半ばを過ぎた彼は、年よりは若く見えた。
彼は、広告の仕事をしていて、今まで何度かの恋愛と呼べるものや、結婚というものも経験をしたが、今は一人だ。
昨日まで、アジアのリゾートで1か月間の仕事だった彼は久しぶりの自室からの景色がこれほど快適だったのかと半ば驚いていた。
サイドテーブルの腕時計を取る、それは午前6時を指していた。
今日彼はこれから、西へ向かう新幹線に乗る事になっていた。
9時過ぎに東京を出る”のぞみ”だ。
仕事ではない
昨夜帰国した彼は今日から数日の休暇だ。
本来はあてもなく、東京で過ごす筈だった。

昨日、深夜に電話が鳴った。

受話器を取った彼は、はいとだけ答えた。
私です。
彼はその声が誰だか直ぐに分かった。
『君か、久しぶりだ」
「今夜帰国だと言っていたから」
「そう、さっき帰った。」
「島はどうだったのかしら」
彼女は聞いた
「快適だった 仕事もビーチもゴルフコースもね」
「貴方はいつも、快適だと言うのよ、何処にいてもね」
「そんな事は無いとは思う 不愉快な時だって中には極めてたまにあるよ。」
「でも今回も快適だったのね」
「快適だった。」

「明日はどうするのかしら」
「休みだ、特に予定はない」
彼は本当の事を言った。
「じゃ付き合ってもらえるかしら」
「それは良い、つきあおう」
彼は間も空けずに言った。
「まだ何するのかも言っていないのよ」
「かまわない、つきあうよ たぶん快適な事に違いない」
「それは、どうかしら」
「話してくれ」
「私は明日京都に行くのよ 半分は仕事で」
「じゃ僕も京都か」
「貴方さえ良ければ」
「構わない」
「仕事は、14:00から始まって 18時には終わるのよ その次の日はお休みを取ったの」
「それはいい、僕は明日もその翌日も大丈夫だ」
「じゃぜひ、京都で過ごしましょう。」
「そうしよう、僕はどうすれば良いかな」
「私は朝の新幹線で京都に行く予定なの、貴方は18:00過ぎに京都に居てくれれば良いのよ。」
「解った」

二人は京都で会うことにして電話を切った。
彼女の予約したホテルの名前を聞いて、彼が先にチェックインして彼女を待つことにした。
彼は、午後の時間に京都に着けば良いのだけれど、何故か朝の新幹線に乗ろうと思った。
彼女と一緒に行くという選択肢もあるが、彼はそのことには触れず、一人で朝ののぞみに乗る事にした。

窓からの景色を束の間楽しんだ彼は、ベッドを出てシャワーを浴びた。
タオルを巻いてバスルームから出ると、クーローゼットのある部屋に行き、1泊分の着替えをオーバーナイターに詰めた、そして読みかけの本を1冊と、マイヤーズラムを1本を一緒に入れた。

支度を終えて、一旦ダイニングに戻り、コーヒーを落として冷蔵庫を開けた。
中から、昨夜スーパーに寄って買い求めたアボガドとライムを取り出すと、ナイフでそれぞれをカットした。
白い陶器の居器にアボガドの半分を載せて、岩塩を削りかけた、そこにライムを絞りテーブルに運ぶ。
ガス入りのミネラルウォーターをグラスに注いで、グラスを持って座った。
スプーンでアボガドをすくって食べた。
食べ終わるとコーヒ2杯を、それに見合った時間をかけての飲んだ。
キチンで食器を洗うと、先ほどの部屋に行って着替えた。

彼が東京駅に着いたのは、乗ろうと決めていた列車のが出発する20分前だった。
窓口でチケットを買い、5分前にホームに上がった。
決められた車両の決められた席に着くと、のぞみは緩やかに動き出した。

新横浜を通過する頃合いで彼女にメールを入れた。
自分がの既に東京を出た事は告げず、今どのあたりだろうかと聞いてみた。

熱海のトンネルの間で、彼女からの返事を読んだ。

彼女は30分先行する、のぞみで移動中だった。

トンネルの続くセクションで彼女に再びメールをした。
着いてからの予定は?

彼女からの返信は三島のあたり、丁度伊豆半島の西側が見える辺りだった。
そこには、一人でブランチををしてから14時に会場であるホテルに向かいます。
と書かれていた、そのホテルと今夜宿泊するホテルとはわざと離れた場所にしたらしい。

ブランチなら、駅に隣接したオープンテラスのここが良いと彼は1件の店を示してメールした。
お天気の良い日は、ここが快適ですよ・・・ と付け加えて。

彼女から、そこに行ってみます との返信が来たのはもう、浜名湖を通過したころだった。
彼は、この1時間を景色とメールとで楽しんだ。
右に富士山も見ることが出来た。
彼はとても、快適だと思った。

名古屋を出て暫くして、のぞみが再び減速を始めた
車内にアナウンスが流れた、まもなく京都だと告げている。
窓の外は何処か沈んだ雲が広がっていてた、名古屋までは明るい日差しが差していたいたのに関わらずだ。
今にも降り出すかもしれない空、のぞみは目に見えて減速し、やがて東山トンネルに向かう
彼女からメールが来た 京都は雨でした。

僕は、あわててメールを返信した
まもなく京都に着く、ブランチは僕がご馳走するから 雨を許してやってくれ
そう、返信をした。

彼女から、直ぐに返信があった

お店変えてもイイかしら  と・・・・・

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