おのずと結論ありきだった会議が終わる。

今回の旅もこれで終わろうとしていた。

また東京に戻り、日常がはじまるのだろうと思うと少しだけ重い気持ちになった。


彼は、今日の会議に遅刻してきた例のコーディネイターと今テーブルを挟んで向かい合っていた。

先ほどのオフィスからほど近い、彼の宿泊するホテルの向かいにあるホテルのカフェテリアだ。

テーブルには、それぞれが注文した料理が並んでいる、白ワインを飲みながらそのコーディネーターの女性が話し始めた。


「あなたって随分変わっているわね」

グラスを手に持ったまま、その翳したグラスの横から彼を見る様にしてそう言った。

いかにもこちらものですという、ディテールの服を来た彼女は海外に暮らす日本人の典型のような人物だ。

「変わっている そうだね よく言われるよ」

「どうして」

「それを聞いてどうするんだ」

「参考にするの」

「何の参考だい」

「男の参考 それも日本の男の参考にね」

「それは面白い言い方だ 日本の男の参考か それはいい」

「でしょ」

「うん それはいい」


彼はパニーニを頬張りながら彼女に聞いた。

「君は日本の男のサンプルを収集して何に使おうというのだい 仕事に役立てるか・」

「それもあるわ だって、私が仕事をもらうのは決まって日本人 それも圧倒的に男性が多いでしょ」

「ま 日本の社会だね それが」

「でしょ」

「そうだ」

「だから、そのクラインとの心理を知っていて損は無いでしょ」

「君の言う事は、間違っていない ただ表現は面白い」

彼女の空いたグラスにワインを注ぎながら彼は彼女の眼を覗き込んだ。

そして眼を見ながら言った。

「僕が変わっているとしたら それは多分 こだわりが無い事に拘っているからだと思うよ」

「どういう事」

「つまりさ、拘らない様にあえてしているのかもしれない 拘る事で見えないものも多いと思う、だからあえて拘らないで行動するんだ」

「具体的には」

「まるで取材だね」

「取材よ」


「そう  なら答えよう  例えばさ、会議に遅刻する様なコーディネーターは好きじゃない。」


「あら 私の事」


「そう さらに クライアントを差し置いて、そのクライアントに直接接点を持とうと取り入るコーディネーターも大嫌いだ」


「あら それもあたし」


「そう それは 表面的な好き嫌い という次元の話であり これに拘れば 君とランチをすることも無いさ」


「でもこうして、あなたは私をランチに誘った」


「そこ 拘ればたぶん、このランチは実現していないだろう」


「そうね そして 私があなたとランチをしたいか したくないかという意思もあるし」


「そのとうりだ」


「なぜ、誘ったのかしら」


「拘らない事に拘ったからだ そしてこのランチがお互いにとって有意義かどうかよりも・・・」


「なに」


「この時間が快適化という事が大事だ」


「そして 貴方は」


「きわめて快適だ」


「やっぱり変わっているのね」


彼は再び彼女の空のグラスにワインを注いだ


「そして 同時に君が今この時間が快適であってくれたら嬉しい」


「私 そうね 少し不愉快よ だって クライアントに媚びて取り入るなんて言われて 愉快なはず無いでしょ」


「それは、もう訳ない でも少なくても僕にはそう見えた 他の日本の男でもそう思う者はいると思うよ ぜひ参考にしてほしい    そして・・・」


「そして 何」


「そして 君が不愉快になったなら 愉快になってもらえるように僕は拘らずに努力するよ」


「どうしてくれるのかしら」


「今考えている そうだこの後の予定は」


と彼女に聞いた。


「夜 友達と会う予定があるの9時過ぎ それまではフリーよ」


「ならば、その間に僕は君が愉快だったと言える様にしたいと思う」


そう言って、彼は自分のグラスにワインを注ぎ、空になったボトルを逆さまにしてクーラーに刺した。


そして、彼女を見て


「暗くなる前に 今よりも快適な関係の二人になる様にお互い努力してみないか」


と言った。


「具体的にはどうするのかしら」


「良くは話そうよ 二人で 裸でブランケットに包まってさ それも明るい日差しのあるうちに」