翌朝は晴れてはいるが、朝靄が街をかすかに包み込んでいた。
窓からは道路を挟んで建つホテルの建物が見える。
窓を開けて、階下を見降ろした。
一台の大型セダンが車寄せに入るのが見えた。
シャツを着て、サマーウールのドラザースを履いた。
ソックスも履きローファーに足を入れる。
手にはジャケットとバックを持って部屋を出た。
階下のレストランには寄らずに表に出た。坂道を下り、アメリカ大使館の脇を歩いた。
何処か東京の景色を思い出した。大使館の建物は、虎ノ門のそれと同じく、街並みから少しだけ違和感を感じる。
坂を降り切った処にバス停がある。
通勤の人が並んでいる後ろを抜て歩いた。
大きな道を左に逸れた処に古いビルがある。
そのビルの5階が目指すオフイスだ。
エレベータも旧式で、彼は機械の音を聞きながら上がって行った。
入り口のボタンを押すと、ブザーが鳴り、やがて中からロックの外れる音がした。入り口のドアを入ると,さらにドアが二つあった。
彼は左側のドアを開けた。
明るいスペースは広く、会議用の10人は座れるテーブルがセンターにあった。部屋の奥の横に広い部分に開口部が腰から上の高さの窓があった。
彼の他には誰も人の姿は無く、彼が座ったタイミングで女性のローカルスタッフがコーヒーを持って入ってきた。
「まだ、誰も来ていないです」と彼女は日本語で行った。
彼は頷くと、笑顔でコピーを受け取りながら、グラッツエ ノンチェ ブロブレーマと彼女に言った。
彼女は笑顔で部屋を出て行った。

しばらくして、ディレクターはじめ朔日のクルーが部屋に入ってきた。
クライアントも営業に連れられて入ってきた。
「皆さん揃ったみたいなので始めましょうか」と彼が言うと、制作チーフが会議をスタートさせた。
しばらく後で、コーディネーターの女性が慌ただしく入ってきた。
彼女は会議の話しもお構い無く席につくなり「ローマは駄目よ 混んでて 混んでて」と渋滞の話を始めた。
営業がそれに合いの手をいれたので、彼は無言で、持っていたペンで話を辞める様に促すと、制作チーフのほうをみた。
会議が再開した。
コーディネーターは不満そうな顔で黙った。

制作チーフの進行で、台本でもあるかの様に会議は進み、昼を挟んで2時に終わった。





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