自動車道路、直訳すれば何のこともないアクトストラーダ

丁度イタリアの長靴をミラノからナポリまで縦断している。

勿論ナポリっ子に言わせれば、ナポリからミラノを縦断していると言うかもしれない。

ポンペイの遺跡までの観光には欠かせないこの道は、アウトストラーダ・デル・ソレ

太陽の高速道路と呼ばれたりもするが、今彼が走っているローマから北に向かうルートは、それとはかけ離れた真冬の景色が広がっていた。

時速にして120Kmで巡航している彼の乗るクーペは、ここでは国産車であるアフファロメオだ。

快適に追い越し車線を走る。

レイバンの濃い緑のドライビンググラスをかけた彼は今年35歳になる、東京で広告の仕事をしている。

日焼けしたその姿は、一見するとアジア系ではない雰囲気を携える、身長はアジア人の平均で、体つきも中肉中背という平凡な日本人ではあるのだけれど、どこか無国籍な雰囲気を感じさせた。

イタリアへは約1か月の予定で滞在し、ローマにホテルを取り日々仕事で忙しくしていた。

この日は、フィレンツエでロケハンがあり、彼は借りている車で一人目的地を目指していた。

ローマからならこの高速を使えば3時間強でフレンツエに着ける。

幸い平日のこの時間は彼の走る道は空いていた。

対向車線は交通量も多く、ヨーロッパ、特にイタリア、スペインあたりでよく見かけるトラックをワゴンを足した様な商用車が目立つ。

ローマを出て既に2時間が経過しようとしていた。

高速道路上の標識が、ロートグリル、丁度日本で言うパーキングエエリアが近いことを告げていた。

彼は、方向車線へと車を入れ、さらに標識にあるオートグリルへのランプウエイに入った。

緩やかに、本線を離れ、本線を少しだけ下に見るような坂道になったランプを上がる。

そこから緩やかな右カーブを抜けると広いスペースに出た。

ここが車が止められるスペースで、このエリアの外側にはガスステーションとレストランと売店を合わせた機能のある2階建ての平たい建物があった。


彼は、建物の正面に丁度1台分の駐車スペースを見つけ、アルファを頭から駐車した。

少しの間アイドリングで様子を見てから、イグニッションをオフにする。

循環していた熱くなったオイルが、エンジン下部のオリルパンに落ちる忙しない音が微か続いた。

ドアを開けた途端、外の冷気が車内に入り込んできた。

彼は、後部座席に無造作に投げてあったコートを背中越しに引きよせて、それを手に車から降りた。

ドアのロックをして、オートグリルの建物へ歩いた。

彼はその間にコートを着た。

周囲には人影はまばらだった。

商用車のドライバーが多く

その他は、観光客バスから降りた日本の団体ツアー客が一斉に建物へ雪崩れ込んでいった。

彼は、それを何かとても無関係な光景としてみた。