ズブロッカの香りも2杯目になるとさして特別なものではなくなり、僕らはその凍った液体が体温で暖まるのを口の中で感じながら飲んだ。
ここからの夜景は悪くはないが、それを目当てにこの店に足を運ぶという類のものではない。
静かな空間の中では男女の囁きのみがそこにある音だった。
BGMもなければ、食器の音もなく、それぞれのゲストたちの囁きだけが聞こえたが、それさえも内容が解るものではなかった。

時が緩やかに流れるこの場所で毎夜、選ばれた客達がグラスを傾ける。
けれど、馴染みなのかもしれない客同士が会話をする事は無い。
入店時に見た規約の中にも、それは明記されていた。
同伴者以外の方との会話はNGとされていた。

唯一、除外されるのがスタッフとの会話である。

彼女は僕を見ながら言った。
「悪くないわ」
「だろう」
「ええ 悪くないわ」
「でも判断するのはまだ早いかもhしれない」
「なぜ」
「その理由は多分、もう少ししたらわかる気がする」
「解らないかもしれないのね」
「そう それは誰にも解らないんだ たぶんね」

「チョコレートが食べたいわ」

彼女がふいに言った