ワインの酔いは僕を冒険家にしようとしていた。
以前から行きたかった店の名前を僕は彼女に告げた。
アルファベット3文字のその店は、ここからほど近い場所にあることを同時に伝えた。
「WEBで見つけて行ってみたいと思っていたんだ」
「何のお店なのかしら」
「良くは解らないけれど、会員制で結構面白いスタイルの店だと書いてあった」
「面白そうね」
「たぶん面白いと思う」
二人はそんな会話をした。
ケンの店を出て、僕は電話をした。
店のアポは直ぐにとれた。

タクシーを拾い、店の場所を告げた。
住宅街の一角にその店の入ったビルはあった。
店なのに、玄関エントランスからインターフォンで通話をしてオートロックが開くシステムだった。
エレベーターで店のフロアに上がる。
うち廊下が続きガラスのドアがあった。
入り口で、店のスタッフとおぼしき男が僕らを迎えた。
店に入ると個室があり僕らはそこに通された。
入会の規約を説明され、規約に対して条件を満たしているかのチェックと身分証明の提示を求められた。
僕がそれに応じると、彼女も同じように身分証を出そうとしたところで、スタッフの男が言った。
「お連れ様の同伴としてであれば、身分証は不要です。本日は同伴者様でお入りになり、よろしければ次回以降必要に応じて会員登録をされれば如何でしょうか。同伴者様は原則無料で、会員様と同じサービスが提供されますので」

そう言われて彼女は笑顔で納得した。

登録は簡単に終わり、僕らは個室から解放された。
廊下は、毛足のあるカーペットで廊下が続く
やがて一段下がったフロアに続きそこは広い空間だった。
クロークでがあり、手荷物を預ける。
その先は、3方向が窓になっていて、南だけがバルコニーに出られる。
その他の窓は、ウエストラインから上が広い窓になっている。
フロアの明かりは最小限にされ、東京の夜景が窓から煌めいていた。
唯一の壁にバーカウンターがあり、フロアにはソファーが数セット置かれている。
ソファーにはそれぞれにサイドテーブルがあるがどの席も差向かうタイプでは無い。
僕と彼女が通されたソファーも同様で、僕らは深く低いソファーに身を預けるように並んで座った。
直ぐに、女性のスタッフが飲み物のオーダーを取りに来た。
皮表紙のリストには、種別ごとのカクテルやウイスキーなどが表記されていてワインリストはそれとは別にあるという。

僕は既にかなり酔っていたので、ズブロッカのロックを頼み、彼女もそれにした。
ソノフロアには、僕らの他には4組ほどの客がおり、みな男女の組み合わせだった。
気にならない、程度の会話が聞こえていた。