人が行きかう 国際線の出発ロビー


彼女がチェックインを済ませたフライトはオンタイムだとフライトボードが告げていた。

彼は、出国手前 セキュリティーで2度だけ振り返った 笑顔だ

彼もそれに応え笑顔で手を振っている。


セキュリティーを抜け、お決まりのイミグレーションを済ませた

ゲートまでの道を彼女は歩いた

カーペットの上をパンプスで歩く時の、変に引っかかる感じが彼女は好きでは無かった。

ボーディングは既に始まっていた。

出発まで 30分を切る


彼女はゲート脇の売店でコーヒーを買った。

人々は、意味もなく機内へと急ぐ

その傍らで彼女は落ち着いて紙コップのコーヒーを飲んでいる自分が何処か愉快だった。


つい、30分前 彼女は彼と差向い同じようにコーヒーを飲んでいた

顔を上げれば彼の顔がある そんな時間を 今 何処か彼女は懐かしい気持ちで思い出す

顔をあげてみた  機内へ進む列が彼女の直前の視線を遮っている


彼の顔が無い


当たり前のことに彼女は 少しだけ失望をした


彼女はあの日 この時までを 彼との時間と決めた


この先は そう 彼に話をした あの理由があった


そして、この瞬間は 彼は彼女の恋人ではない


覚悟を決めた



あの千葉のリゾートで彼女は彼にすべてを伝え


彼はそれを受け入れた


そう、それを彼なりの方法で



そして、今 フライトは 最終の登場案内を


彼女はコーヒーを飲み終えるとゲートに入った


ボーディングをスロットに通し 

使わなかった エクゼクティブシートのラウンジパスをゲートの地上係員に渡した


彼女が決められたシートに着くとまもなく


ドアクローズの後の儀式の様な ドアモード変更のクルー間の内輪のやり取りがスピーカーを介して行われる。


彼女は携帯端末に、メッセージを打ち込んだ


「それでは これで飛びます 今度 お会いする時は・・」


彼女はそれを送信し、更に短いメールを打った


彼女を乗せた機材は


緩やかにスポットを離れ 誘導路をランウエイ末端まで平行に進んだ


独特なチャイムが3回ほど鳴り


離陸を告げるアナウンスのあと 


4基のプラット&ホイットニーは スタビライズからオートスロットルでマックパワーへと回転をあげる


急送に加速する中 フライトデッキでコーパーイが VRをコールした丁度そのタイミングで彼女は


メールの送信ボタンを押した。


送信完了のサインを見て彼女は携帯の電源を落とした


ポジティムクライム ギアが上がる 彼女を乗せた飛行機は徐々に高度をあげた


スパイラルクライムが解ける頃 キャビンから今出てきたエアポートが見えた



彼は、彼女のプライトの出発がオンタイムで出た事を確認してパーキングに停めたクーペへ乗り込んだ。


東関道を都内へと戻るルートにクーペを向ける。



千葉での出来事の後で直ぐ 彼はあるアクションを起こした

そのアクションは彼の持つ人的コネクションを酷使した、言わば力ずくのものだった

大人げない そう 形容するなら十分に当てはまる

けれど、彼はそれを後悔することは無いと信じていた

穏やかな平和主義の彼が

でも、それも終わった事だ



先ほど彼女からメールが届いた

彼女が出発を告げたメール


今度お会いする時は・・


それでメールは途切れていた


彼は高速を走りながら、サイドシートに投げてあった携帯を見た

なぜか、携帯にはメール着信を告げるランプが灯っていた


彼はそれを無視して、クーペを走らせた。







バーラウンジ 彼は車を置くとここにきた

バーボンのロックをバーテンに注文し

携帯を見た


メールは彼女からだった

今は 太平洋上 39000フィートの彼女から


離陸直前に発進された事が解る


その文面にはこう書かれていた


「今度会う時は 貴方だけの私として 愛しています」



彼女は今 対地速度980キロで数週間前にいた場所に戻る


ただ そこには 彼女の記憶にある 男とそれに関わったものは誰一人いない



molt posso 追従できない放物線の裏側へ















内容はフィクションで携帯電話の使い方は間違っています。

物語の中とご容赦ください。