それは旅の疲れか 彼女は久しぶりに熟睡をした。


バスルームでの出来事の後で二人は眠った。


彼が目を覚ました時、時計は夜の8時を回っていた。


その時彼女はとても優しい寝顔で眠っていた


起こすのがとても躊躇われたので、彼はそのまま寝かせておこうと思った。




彼はシャツを羽織りバルコニーへ出ようとしたが、音や風で彼女が起きてはいけないと思い止めた。


静かに服を来て部屋を出た。




回廊を歩き、エントランスとロビーがある建物に向かった。


既にアルコールは完全に抜けている様で、とてもすっきりとした感覚だった。


ロビーに入るとそこは外へ食事に行く人や、戻った人で賑やかだった。




ロビーを抜けて反対側の回廊へ向かう途中にカフェがあり彼はそこでエスプレッソを注文した。


外を望む席に座りコーヒーを飲んだ。


彼女の事がとても気になりだした。


別れを告げて 今二人は恋人として過ごす残り僅かな時間を共有している。


そう、別れを告げられてから未だ数時間しか経っていないのだが


彼には、ずつと昔から決められていて、その時が来たという方がしつくりきていた。


何処かで彼は常に別れを感じながら彼女と過ごして来たのかもしれないと自分自身を振り返る。


勿論答えなどはでないけれど、なぜかそう感じていた。




何が彼女に 「何故」 その感情はふつふつと湧き上がる


でも、それは彼女が真実を語る以外に知る術はないと彼は知っている


詮索は所詮なにも生まず、ただ無駄だと後で後悔する時間を重ねるだけだと感じた。




今 彼は彼女を愛していて、それはここ何年も変わらない


彼女は 彼に今も愛しているのだと告げた ほんの数時間前に


それなのになぜ 彼女は別れを切り出し




そう、だから考えても無駄なのだと 思う。




彼は手を上げてスタッフを呼び、2杯めのコーヒー今度はブレンドを頼んだ。


エスプレッソの2杯めではなく


今度は普通のコーヒーが飲みたくなった。




イタリアでは カフェ・アメリカーナと呼ばれるやつ、日本で言うアメリカンよりは普通のコーヒー


だから彼はブレンドを頼んだ。




2杯目を飲む間は、考える事を止めた。


ただ流れる時間の中で、部屋に戻れば彼女が眠っている その事柄がとても彼には良い事で、今 彼は快適な時間を過ごしている事を喜ぼうと思った。


外には星空が広がり、海からの風が吹く


こんな夜に彼女と過ごしている事がとても特別だと感じる


以前、彼女とは様々な所に出かけて、二人だけの時を過ごした。


今よりも少し若い頃に、アジア、ヨーロッパ、アメリカ そのどの場所も思い出としてある


国内はもっと若い頃に各地を回った


それも とても快適だった


そのどれと、比較しても 今夜もまた同じく快適な時間だった。




そう思うと彼は、無性に可笑しくなった 笑いたい気持ちに 


彼女が部屋で眠る間に、彼女を存在を感じながらコーヒーを飲んでいる自分


その気になれば、数分で彼女に触れる事が出来る事がとても素敵な事柄だと感じた。






molt posso 追従できない放物線の裏側へ