千葉県 金谷港 不恰好なフェリーの接岸は見ていてとてもスマートだった。


大きくは無いとはいえ、このサイズの船は狭いバースに設けられたスポットに、それこそピンポイントで滑り込む。サイド・スラスターでも備わっているのか、船はその場で回頭する。


舫が渡されて、陸の係員との連携も巧みに5分ほどで接岸が終了した。




塩で白くなった窓からその様子を眺めつつ


彼は、先ほど彼女に言われた 別れ を考えていた。


別れには必ず  理由(わけ) が存在する。


愛 恋 と呼ばれる男女の関係で別れはどんな形にせよいずれ訪れるものだ。




彼は今回その理由を彼女からは聞かされていない。


そしてまた彼も 「何故」 と言う言葉を彼女に言っていない。




理由を知ることにより何かが変わるのだろうか


仮に変わるとして、それをすることが彼女に、そして自分にとって良いことなのだろうか。




彼の今までの経験で、理由を知って どうしたと言うことがあったか。


そう思いを巡らせれば、知ったところでそれは自分自身の中で彼女のことをまた一つ知る事に他ならず、それ以下でもそれ以上でもない。


まして別れ という現実の前で彼女をより知る事に何ら意味があるのかと感じた。




そして、彼は聞かないと言うことを決めた。






船内のアナウンスが着岸と車への移動を促す。


彼は彼女の手をとり、下層のカーデッキへと降りた。


繋いだ手 思えば彼女と手を繋ぐと言う行為は久しぶりだった。




彼女は不意に差し伸べられた彼の手が、どこかうれしかった。




カーデッキで何処か油の匂いがした


ハザードが点滅してクーペのロックがはずれる、彼は助手席側に周りドアを開けた。


彼女を先に乗せ、繋いだ手を離した。




彼女はもう少し手を繋いでいたいと思った。


運転席側に乗った彼が、エンジンをかける


エアコンの風が出始める


やがて、乗り込んだ側とは反対の巨大な鉄のゲートが開き、係員の誘導で車が吐き出された。


その中の1台として、クーペは千葉の地を踏んだ。


港には、フェリーターミナルと食堂が併設した建物があり、そこを通り過ぎると国道だ。


クーペは国道に入り右折してトラックの車列の間に入った。




「ごめんなさい」




彼女が呟いた




「ま いいよ でも 今は僕らは恋人同意だしさ ま 良いんじゃない ま」




彼はさすがに曖昧な返事しかできなかった




その彼の返事に、彼女は自分なりの理由(わけ)を言わない事がどうなのだろうと思った。


理由は明確にあった。


でもそれは、彼に付随する問題は一つもない 彼はかれのまま 彼女の中に存在している。


愛情も、感情も同じように変わらずに


ただ、彼女の状況がそれを いや 彼女自身がそれを終わらせなければならないと感じている。


誰のため・・・・ それは彼女なりの思いの中で。




彼女の中で理由(わけ)が急に膨張するのを感じた




晴れた千葉の海沿いの道を走る。


目的地を彼は決めていた。


この先にある、会員制のリゾートを彼は目指した。


彼自身は会員ではないが、仕事の関係で利用できるのだ。




「僕は2日間の休みをとった、君のスケジュールが許せば今日明日の2日間一緒にいられるかな」




「昨日空港に着いて、お部屋に荷物をおいて来たのよ、そしてホテルあのホテルに行ったの 簡単な着替えも持っているのよ だから明日の夜にでもお部屋に戻れば大丈夫 一緒に過ごせればうれしいわ」




「僕も何かとても嬉しい じゃ任せてくれ 明日の夜君を部屋まで送る」




国道は道幅が狭まり、通行料も減ってきた。


小さな町中の信号を左折して、更に細い道へと進んだ。




やがて、小高い丘の裾野にあるリゾートホテルの入り口のスロープが視界に入った。


そのスロープをクーペは加速しつつ登る 両サイドを流れる景色、植え込みの緑が眩しかった。