不釣合いな漁港の景色がフロントウインドウに写る


午前のこの時間は朝の漁は終わり、猟師たちは網の手入れや、船に油を入れる作業をしている。


「本当なら僕らは昨日 様々話をするべきだったのではないかと僕は思った」


「話」


「そう、君の会わない間の出来事 そして僕も君が居ない間の出来事などをね」


「今からでも 良いわ 話をしましょうよ」


「そう思う 君と話をしたい」


日差しが車のサイドウインドウから注ぎ、彼女が少し眩しそうな顔になる


彼は、車を港の道からスタートさせた




「たぶん色んな話があるのだと思うのだけれど」


「あるかしら」


「あるはずだ」


坂を上ると三叉路になる、彼は右に曲がり切通しを進んだ。


逗子の市内に向かう道を進み、途中を右折して海沿いの道を進んだ。




彼女は出張中の出来事を話した


大きい商談をまとめた話 彼女のボスが少し変わったアメリカ人だと言う事。


滞在した町のこと




その話はどれも、適当に興味深く彼はハンドルを握りながらそれを聞いた


一通りの彼女の話が済んだので


彼は彼女が居ない間の出来事を話した


その話もまた、彼女を退屈させない話題だった。




葉山を抜けて長者ヶ崎を回り、海沿いの直線を進んだ


右手には、レストランやカフェが点在し、そこそこ有名な店も増えたエリアだ


適度なペースで走ると道はやがて内陸に入り込み地方の田舎町の景色に変わる




「君の出張はたぶん君にはとてもいい経験になったみたいだ」


「だと 思うのよ でもね・・・・」彼女はそう言って黙った


「でも 何かな」




「良いことばかりでもないのよ」


「よくないことがあったんだ」




「よくないこと・・・ う よくない・・・ そうね よくないわ」


彼はそのわけを知りたいと思った けれど 今 聞くべきではないと感じた




「僕も 良いことばかりではなかったな」


「そうして」


「君が居なかった それは僕にはとても困った問題だった」




「そうなのかしら」


「そうに違いない」




「君が居ないと言うことは それだけで僕には大問題だ」




「来週からまた私は日本を離れるのよ」




「それは困った問題だ」




「そう困るのかしら」




「正直にかなり寂しい」




彼はそう彼女に伝えた。




道は三浦に近い林のローターリーに差し掛かった。


彼は左折して 少し大きい声で言った




「そうだ」




「何かしら」




「今思いついたんだ」




「だから何を」




「僕らのこれからの事さ」






「私たちのこれからの・・・」




「そう」




「で」




「船に乗る」




突然の言葉に彼女は意味を理解できなかった




「こんな日は 船に乗り海に出るんだ」




「意味が解らないのよ」




「かまわない 僕は解っているから」




かれは何処かに笑顔を浮かべ衣笠を右折し直進をし、久里浜へ向かった




フェリーターミナルの乗船口に車を並べた




「ふーん フェリーに乗るのね」




彼女は呆れ顔で彼を見る




「騙されたと思ってさ 付き合えよ」




やがて乗船の順番が来て車はフェリーに載った。




クーペから降りて船舷のラッタルからキャビンに上がった。




快適そうな椅子がきちんと並んだフロアからもう1層上に上がると見晴らしの良いフロアに出た。


そこから外がオープンデッキになっていた。


潮風が心地よく吹き フェリーは汽笛とともに出航した


約40分 で 対岸の千葉県 金谷港に着く予定だ。


一度キャビンに戻り、カウンターでコーヒーを二つ買い 椅子に座った。


この日も東京湾は通行する船が多かった。




二人は景色を見ながら コーヒーを飲んだ 船内は空いていてコノフロアには人影はまばらだった。


朝早い便と 夕方の便は混雑するが この時間は丁度空く時間帯だと彼は知っていた。




「ねえ いいことばかりじゃなかった」


「あ その話ね・・  彼女が話し始めた」