そんなメッセージが携帯に届いたのは週中の夜。ゲネプロに立ち会った後の時間を一緒に過ごそうというメッセージを彼女は短いメールにして送ってきた。僕はとても良いと思った。初台に気の利いた店があるとは思わなかったけど、少なくてもステマネを生業にしている彼女のメールとしてはとてもいい。地下の駐車スペースから地上に、ホワイエに続く階段の景色も今夜は上出来に見えた。
いきなりバックヤードから入り彼女の元へ行くこともできるのだけれど、折角だから会うまでの時間も楽しみに加えたい、そう考えた。ホール周りを少しだけ歩いた自粛傾向の灯りも何処か新鮮だ、パブの灯りがオレンジで目に優しい。僕は何故か、毎日顔を合わせる彼女に花を送りたくなった。思い付きだった。
車に引き返しビル街の花屋に横付けた。
持ち慣れない花束の持ち手は頼り無い肌触り、そして冷たかったけど…
オペラに戻り楽屋口の車寄せでメールを彼女に。
楽屋口に車を用意させています、今宵のソリスト薫さんのために。
彼女は薫という名だった。