「彼女がゴールド・コーストからワーホリを終えて帰ったとらしい」 そう 友人のケンタが言ったのは丁度1週間前のこの授業だった。

大教室に段々畑のような学生用の席が広がる。

湾曲した奥行きが無いこの使い難い机が備え付けられているのは、どうせ学生はこの机を居眠りの頬杖にしか使わないという思い込みが感じられる。

でも、現実の眠るには頬杖なんてついていたら熟睡した時に怪我をしかねない。

どうせ眠るなら、机に涎の水溜りを造りながら、顔全体を載せて眠らせていただく。

大体、眠くなるような講義しか聞かさないのだから、単位とという飴がなければこんな教室に足など踏み入れない。

そんな自分なりの屁理屈を考えていたら、隣のケンタが話し出した。

「先週 話したよな 彼女のこと」

「ああ ワーホりから有美が帰って来たと言う話だろ それでどうした」

「彼女がお前に会いたがってるってさ」

「あの女何を今更と言う感じ・・・・」

「会ってやれよ」

「いやだね」


教授が僕らをにらんだ

話はいったん終わりにして僕らは顔を見合わせた


「にげるか」ケンタが言った

「にげよ」

僕らはコソコソと授業の邪魔にならぬ様に注意しながら逃げた

大教室の重いドアを開けると 外は何故か開放感が漂っていた。

教室前の階段を下りて、学食と呼ぶには小奇麗過ぎるカフェテリアという強引かつそのままのネーミングの学食に入った。

バフェレーンでコーラを2つ買った。

一つをケンタに手渡して近場のテーブルに座った。


ケンタがクールにジツポーで火を付けた 僕もキャスターを咥えケンタの火をもらった。

タバコの煙を吐きながら

「良いから 有美に会え」

「嫌だ」

「嫌はだめだ おれも同席してやる」

「もっと嫌だ」

「じゃどちらかを選べ 二人だけで会うか それとも」

「それとも」

「俺を入れて3人で会うか」

「ばかばかしい」

「じゃ 決まりだ 時間と場所は俺が決めてやる 俺に付いて来て欲しいかどうかはその時までに決めろ」


物凄く理不尽なケンタは物凄く理不尽に事を決めて勝手に喜んでいる

僕は、行かない それでもケンタが適当にまとめる そう思って この話は決着した。


帰りの電車のふと考えた

2年前 彼女が そう有美がワーホリに行くと言い出した時の事

止める事もせず とはいえ応援する事も無く

出発を控えて忙しい彼女から僕は自然と距離を置いた

それまでは、とても仲の良い恋人同士だったはず 少なくとも僕はそう思っていた

それなのに、オーストラリアに行くと言う彼女が何処か許せない気持ちだった。

その彼女が、帰ってきたと聞いた 1週間前に

そして、その1週間後 彼女は僕に会いたいと言っていると聞いた 

それも、総てケンタ経由の情報で ケンタとは古くからの親友だ

彼女がケンタに連絡するのは不自然じゃない

少なくても僕には直接連絡は来なかった

来たとしても、僕は未だ彼女と話をする気持ちではなかったし

ケンタを選んだのは、悔しいけれど 懸命な選択だと思った。


学校を出てから1時間と少しで、電車は都心の学校から、海の見える街に

そう、僕の住む街に着いた




写真は無関係です

誰だか解らないけれど とても素敵な人ですね


molt posso 追従できない放物線の裏側へ